「INTERVIEW / COLUMN」記事
「あと何キロ減らせ」は危険な言葉 専門家が説く、中高生アスリートを見守る大人の役割
著者:W-ANS ACADEMY編集部
2026.07.03
コンディショニング
体重管理
食事

特集「REDs基礎講座」後編
近年、世界的に問題視されているアスリートの健康障害、「REDs(レッズ)」をご存じでしょうか? REDsとは日本語で言うと「スポーツにおける相対的エネルギー不足」のこと。今月は前後編にわたり、REDsについて学びます。後編ではREDsを予防するために、指導者や家族がどのように見守り、サポートすればよいのかを、日本体育大学の須永美歌子教授に解説していただきます。
◇ ◇ ◇
「もっと体を絞れば、タイムが伸びるぞ」
「少し太り気味じゃない?」
指導者や家族が良かれと思って発せられるこうした言葉は、若いアスリートの健康や未来を奪ってしまう可能性があります。
世界のスポーツ界で課題となっているREDs(スポーツにおける相対的エネルギー不足)は、身体活動によってエネルギーが不足し、月経機能や骨の健康、代謝、免疫系など、全身の健康に悪影響を及ぼす症候群。特に中高生といった成長期のアスリートにとって、その影響は深刻です。
では若い選手たちを、指導者や保護者はどのように見守り、サポートすべきでしょうか。「強くしたい」という熱意のあまり、つい選手の体重や体型をコントロールしようとしてしまいますが、指導者や保護者は「体重を管理する人」ではありません。REDsのわずかな兆候を見つけ、選手の健康と未来を「守る人」であってほしいと思います。
特に指導者や保護者に強く認識してほしいのが、成長期における体重増加の捉え方です。よく「身長が伸び止まったのだから、体重も増えないはずだ」と考える人がいますが、それは誤解です。成長期においては身長が伸びきった後でも、女性らしい体つきへと変化したり、必要な筋肉がついたりすることで体重が増えるのは、自然です。
それを、「身長が伸びないのに体重が増えるのは、頑張っていないからだ」と責めるのは、あまりに短絡的です。むしろ、成長期において体重がどんどん減ること、あるいは全く増えないことのほうに、危機感を持つべきです。
また、体重を評価する指標として、よく持ち出される「BMI(体格指数)」。理想値は22とされていますが、これはあくまで「運動習慣のない一般成人」が「最も病気になりにくい数値」を指します。ものすごく運動量が多い、若いアスリートの理想値ではありません。
アスリートの場合、筋肉量は一般人よりもはるかに多いうえ、筋肉は脂肪よりも密度が高く重い。そのため、トレーニングを積んだアスリートのBMIは数値上、「肥満」と判定されることは当たり前にあります。BMI値が高いからと「50キロを切るまで減量しろ」などとアドバイスをすることは、筋肉を削り、パフォーマンスを低下させ、REDsを引き起こす危険な行為です。
体脂肪率についても同様。家庭用の体組成計で表示される体脂肪率は、測定するタイミングや機器の違いによっても、かなり誤差が出ます。それを真に受けて数パーセントの変動に一喜一憂し、「脂肪が増えたから練習を増やそう」「食事を減らそう」と選手を追い込むのは、百害あって一利なしです。
指導者や親に求められる、成長期における変化への理解
そして、チームメイトやライバルと比べないこと。体重や体脂肪率で選手たちを序列化し、「あいつは頑張っている」「頑張っていない」とジャッジする。チームメイトの前で体重を測定するといったことは、「されて嫌だったこと」の上位にきます。加えて、体重・体脂肪で優劣を測るような指導や考えは、選手たちが不必要な減量に走る要因になります。
体重や体型は、成長発達の段階に合わせた変化を正しく理解し、見守ることが重要です。これを機に何をもって「あと何キロ減らせ」と言ってしまうのかを、ぜひ一度、振り返っていただきたいと思います。
もし家庭で食事の問題や月経の異常に気づいたら、専門家にアドバイスを求めてください。決して、真偽が分からないネットの情報を鵜呑みにしたり、専門的な知識がないまま、自分たちで何かを解決しようとしないことが大切です。
そのためにもご家族や指導者は、「困った時はここに相談しよう」という場所や相手を持っておくことをおすすめします。例えば、自分が通っている病院や婦人科の先生も、その一つ。また、『女性アスリート健康支援委員会』のサイト(https://f-athletes.jp/)にアクセスすると、月経やコンディション対策など、女性アスリート特有の問題に精通した産婦人科医を全国から検索できるようになっています。
最後にREDsを予防するために、皆さんに「してほしいこと」「してはいけないこと」を一覧にしました。「最近、食事の量が減っていないか」「スマホを見て夜更かしをしていないか」「朝、元気に起きられているか」。こうした日常の些細な変化は、自宅で生活している場合、親にしか分からないチェックポイントになります。特に食事や睡眠はコンディション管理の要。ぜひ頭の片隅に置いていただきながら、選手たちを応援してほしいと思います。

(W-ANS ACADEMY編集部)
Sunaga Mikako
須永 美歌子
日本体育大学教授
日本体育大学教授、博士(医学)。日本オリンピック委員会強化スタッフ(医・科学スタッフ)、日本陸上競技連盟科学委員、日本体力医学会理事、日本トレーニング科学会会長。運動時生理反応の男女差や月経周期の影響を考慮し、女性のための効率的なコンディショニング法やトレーニングプログラムの開発を目指し研究に取り組む。大学・大学院で教鞭を執るほか、専門の運動生理学、トレーニング科学の見地から、女性トップアスリートやコーチを指導。著書に『女性アスリートの教科書』(主婦の友社)。
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