「INTERVIEW / COLUMN」記事
「体重が重いから跳べない」は誤解 エネルギー不足で運動能力も低下…“無理な減量”の悪影響とは
著者:W-ANS ACADEMY編集部
2026.07.03
コンディショニング
体重管理
食事
特集「REDs基礎講座」前編
近年、世界的に問題視されているアスリートの健康障害、「REDs(レッズ)」をご存じでしょうか? REDsとは日本語で言うと「スポーツにおける相対的エネルギー不足」とのこと。今月は前後編にわたり、REDsについて学びます。前編では基礎知識と最新の情報を、日本体育大学の須永美歌子教授に解説していただきます。
◇ ◇ ◇
今、アスリートの健康とパフォーマンスを揺るがす問題として、世界的に注目されているのがREDs(Relative Energy Deficiency in Sport/スポーツにおける相対的エネルギー不足)です。
REDsとはその名のとおり、スポーツに必要なエネルギー量が不足している状態が引き金となって起こる症候群のこと。エネルギー不足が続くことで、スポーツのパフォーマンスはもちろん、心と体の成長や健康に悪影響を及ぼします。

スポーツをする人がエネルギー不足になってしまう原因は大きく分けて2つあります。1つは「そもそも食べている量が少ない」というケース。もう1つは「しっかり食べてはいるけれど、それ以上に運動量が多くて追いつかない」ケースです。
エネルギー不足が続くと、「疲れやすい」「集中力が落ちる」といった症状に始まり、練習やトレーニングを続けても、持久力や筋力が低下する、記録が伸びないといった「うまくいかないこと」が起こります。さらには月経異常や貧血、骨粗しょう症、心の問題や睡眠障害など、深刻な健康障害につながる恐れがあります。
しかも、REDsはトップアスリートだけでなく、部活動を頑張る学生たちにも起こる可能性がある、とても身近な病気なのです。
また、最新の研究では5日から14日間という短期間のエネルギー不足であっても、心身に悪影響が出るという報告があります。
特に注目すべきは「神経系」への影響です。研究によると、短期間でもエネルギー不足を起こすと、筋肉量自体は減っていなくても、神経系の働きが鈍くなり、垂直跳びなどで必要な筋肉の「爆発的なパワー」を発揮する能力が低下することが報告されています。
私たちの体は、脳からの指令が神経を伝わり、筋肉が力を発揮します。つまり、いくら筋力トレーニングで筋肉量を増やしても、それをコントロールする「神経の働き」が悪ければ、筋肉の出力を最大限に発揮できません。結果、ダッシュや跳躍、切り返し動作、瞬間的に重いものを持ち上げる力など、あらゆるスポーツに不可欠な瞬発力や敏捷性が低下する恐れがあるのです。
競技種目によっては試合が近づいてくると、「少しでも速くするため」「高く跳ぶため」に「少しでも体を軽くしたい」と、食事を抜く選手たちがいます。しかし、実はやみくもに減量することは手に入れようと思った「スピード」や「パワー」を自ら捨てる行為だと言えます。
自己流で減量すると練習の成果が台無しになる恐れも…
かく言う私自身も、実は陸上競技に打ち込んでいた学生時代、無茶な減量に走った一人でした。当時、走り幅跳びの選手だった私は「体重が重いから跳べないんだ」という思い込みが強く、体重測定が近づくと3日間絶食することも。恥ずかしながら、当時はそれが「自分はこれだけストイックに頑張っているんだから」という自信にもなっていたのです。
しかし、専門的な知識を得た今、大学時代に食事を抜いたり減らしていた間、体はエネルギーを捻出するために大切な筋肉を分解したり、神経系の働きが鈍くなっていたんだなと理解できます。当時の自分は努力の方向が180度間違っていましたし、振り返ると、本当に未熟だったなと感じます。
学生の話を聞いていると、「試合までにあと1キロ落とせば体が軽くなっていい記録が出るはず」「試合直前に食べる量を減らせば、きっと大丈夫」と考える選手は後を絶ちません。
でも、自己流で無理な減量を行うと、わずか数日で、皆さんがこれまで何か月、何年も積み上げてきたトレーニングの成果を台無しにしてしまう恐れがあります。体が資本のアスリートにとって「しっかり食べる」ことは、トレーニングと同じくらい重要だと知ってほしいと思います。
もしも今、あなたが「体重が増えるのが不安で練習に身が入らない」と感じているなら、信頼できる指導者や保護者に相談してください。また、「月経のサイクルが乱れているな」「寝ても休んでも疲れが取れないな」などの悩みが続く場合、『一般社団法人 女性アスリート健康支援委員会』(https://f-athletes.jp/)のサイトでは、女性アスリートの体の悩みを相談できる専門医を探すこともできます。
練習で培った力を100%発揮するため、大事な試合の時こそ、エネルギーに満ちた状態でスタートラインに立ってほしい。そして、今まで積み重ねてきた努力が、パフォーマンスの向上や納得のいく結果につながることを、心から願っています。
(W-ANS ACADEMY編集部)
Sunaga Mikako
須永 美歌子
日本体育大学教授
日本体育大学教授、博士(医学)。日本オリンピック委員会強化スタッフ(医・科学スタッフ)、日本陸上競技連盟科学委員、日本体力医学会理事、日本トレーニング科学会会長。運動時生理反応の男女差や月経周期の影響を考慮し、女性のための効率的なコンディショニング法やトレーニングプログラムの開発を目指し研究に取り組む。大学・大学院で教鞭を執るほか、専門の運動生理学、トレーニング科学の見地から、女性トップアスリートやコーチを指導。著書に『女性アスリートの教科書』(主婦の友社)。
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