「INTERVIEW / COLUMN」記事
女性アスリートと成長期の“体の変化” 毎朝の計量で「すぐに微調整」、ストレスを感じない体重管理法──トランポリン・森ひかる選手
著者:長島 恭子(W-ANS ACADEMY編集部)
2025.09.02
コンディショニング
体重管理

アスリートは体形・体重の変化とどう向き合う? 森ひかる選手(トランポリン)インタビュー
成長期のアスリートにとって、体形の変化や体重の増減は避けて通れない問題です。ちょっとした体重の違いがパフォーマンスに影響してしまうシビアな世界。そのなかでトランポリン女子の森ひかる選手は、史上最年少の14歳で日本一に輝き、その後も世界大会金メダル、2大会連続での五輪出場など、継続的に好成績を残しています。体の変化と、それに伴う怪我のリスクとも付き合いながら、前向きに競技生活を続ける森選手。日頃から意識していることや、体重管理におけるストレスとの向き合い方などについて聞きました。
◇ ◇ ◇
──森さんは4歳の時にトランポリンを始めました。成長期に体形や体格が変化することで、競技への影響を感じたことはありますか?
「体操の選手は体重が0.1~0.2キロ増えただけで感覚が違うという話を聞きますが、高校に入るまでは体重を気にしたことはありませんでした。
ただ、中学時代を振り返ると、練習で帰宅時間が遅かったため、夜は食事をとっていたのですが、あまり食欲がなく、体重が落ちやすかったです」
──高校時代も変わらず?
「いえ、高校生になるとよく食べる友達が増え、その影響で食の楽しみを知りました(笑)。お弁当は1限目が終わった後に食べてしまうので、お昼はいつも食堂へ。休み時間には友達とお菓子を食べたり、練習前にコンビニでおにぎりやアイスを買って食べたり……という感じでしたね。体重もその頃がいちばん増えました。
トランポリンの場合、体重が増えると空中で回転する時の力がより必要になります。もちろん、体重が軽ければいいというわけではありませんが、3回転宙返りができるようになった中学生の頃のほうが、クルクルッと軽く回れていた印象がありますね」
──体重が増えた時、どういった対策をしましたか?
「同い年の練習パートナーと一緒に、体重を毎日測り始めました。あとは二人でよく、バイクをこいで汗を流していましたね。
練習パートナーの子は私よりも体重が増えやすく、そのたびにコーチに怒られていたんです。しかも、『食べすぎたらいけない』と思うほど、人ってなぜかお腹が空いてしまう。その姿を見ながら、大変だな……と思っていました。
体重が増えている最中って、数字を見るだけでストレスを感じてしまいます。気にしているうえに怒られたりすれば、ストレスはさらに大きくなりますし、結果、ますます食欲が止まらなくなると思うんです」
──森さん自身は高校時代も、大幅に増減を繰り返すようなことはなかったんですね。
「そうですね。初めて体重が大幅に変動したのは、東京五輪(2021年)の後、大学3年生の時です。当時、引退しようかと悩んでいたのですが、トランポリンを休んでいた1、2か月の間に体重が3キロぐらいバンッと増えました。体重だけでなく体脂肪率も上がってしまって、以降は体重が変動しやすくなったと感じます」
体重を落としすぎると、着地時の衝撃に耐えられない問題も…

──普段、体重をコントロールする上で意識されていることは ?
「高校時代に始めた、毎朝の計量を習慣にしています。できるだけ誤差が少なくなるよう、毎日、同じ時間に体重計に乗っています。変化があれば、すぐに微調整できますから。
体重が1キロ増えれば、両足に0.5キロの重りを巻いて宙返りすることと同じです。先ほども触れましたが、もともと“クルクルッ”と回っていたはずが、体が重くなると“グルングルン”と重たい感覚になり、空中で回り切れなくなります。
かといって、体重は軽ければいいわけでもありません。体重が落ちればベッド(選手が弾む布地の部分)に着地した時に体が沈まなくなったり、沈む力に体が耐えきれなくなったりという問題が出てきます。
トランポリンではベッドに着地する際、約1トンの重さが体にかかると言われています。体がその重みに耐えられなければ、もう1回跳ぶことはできないし、当然、怪我も増えてしまう。着地の際の負担は特に腰にかかるため、私も大学生の頃は月1回のペースでぎっくり腰を起こしていましたね」
──そんなに頻繁に!
「はい。周囲も私の腰の悪さを知っていたので、『あ、またギックリになったんだ』みたいな反応でした(笑)。
特に練習量が増える試合前になると、発症しやすかったです。例えばウォーミングアップ中やベッドに着地して沈んだ瞬間、風呂上がりに体をふいている瞬間にピキッといってしまう。ですから、常にコルセットを持ち歩いていました」
──大会当日に発症したこともありますか?
「さすがに当日はないのですが、海外遠征の際、会場入りした後に発症したことはあります。その場合、数日休んで、少しよくなったらコルセットを巻いて練習を再開。試合当日は痛み止めとテーピングを巻いて出場しました。振り返ると、高校・大学時代は本当に怪我が多かったと思います」
──怪我が少なくなった要因は何でしょうか?
「筋肉の質がよくなったこと、そしてセルフケアができるようになったことだと思います。以前はストレッチのやり方もよくわかっていなかったんですね。でも今は『あ、ここが張ってきたから、このままだと危ないな』とか『そろそろ、腰が痛くなりそうだな』とわかるようになり、悪くなる前に気づき、ストレッチなどでほぐせるようになりました。マッサーがいなくても自分でまめにケアできるようになったことが、大きな違いかと思います」
おすすめは「いっぱい食べても大丈夫な日」の設定

──森さんは今年に入り、単身、イギリスに渡り生活をされています。トレーニングの拠点を日本からイギリスに移した理由を教えてください。
「よりよいトレーニング環境を求めての決断です。というのも、今の日本のトップレベルの女子選手は学生が多く、社会人の女子選手の練習環境はまったくと言っていいほど整っていないからです。学生であれば部活動という形で、女子選手同士、切磋琢磨しながら練習できますが、社会人になるとコーチもトレーナーも選手も男性という環境のなか、一人で練習するしかありません。
イギリスには東京五輪後に一度、ブライオニー・ペイジ選手(パリ五輪トランポリン女子金メダリスト)を頼って練習に参加したことがありました。それで今年、本格的に拠点を移したという感じです」
──今は他の女子選手と一緒に練習できる環境なんですね。
「はい、そうです。もちろん、言葉は通じないし、慣れない土地での生活はすごく大変です。私、英語はまったく話せないんですね。だから、スーパーでどんな肉を買えばいいのか、この調味料は何かなどいちいち調べないとわからないし、それこそ毎日、生きるのに必死。でも、日々の生活や目の前の練習を一生懸命続けることで、選手としてだけでなく人としても成長できますし、それが競技の結果にもつながると考えています。
生半可な気持ちではなく、覚悟を決めてイギリスに来ましたから、練習もめちゃめちゃしています。今、トランポリンがめっちゃ楽しいんです!」
──最後に、体重の変化に悩んだり気にしたりしている方たちに一言お願いします。
「体形や体重のことでストレスを抱えるとすごくツライなって思うし、『絶対、食べちゃダメ』と考えると逆に食欲が暴走してしまう心配もあります。私のおすすめは、『食べちゃダメ』ではなく『ご褒美をあげる』という日を設定すること。例えば『好きなものは試合後のご褒美にして、それまでは好きなもの断ちして頑張る!』など、食べながらうまく調整する方法を探してみてください。苦しくなりすぎない方法がきっと見つかると思います」
──ちなみに今、森さんの好きな食べ物は?
「今、拠点にしているイギリスで売っているビネガー風味のポテトチップスがすっごく美味しくて、お気に入りです。なので、練習をすっごく頑張った日や疲れすぎた日は食べることを許しています。自分の機嫌を取るための特別なアイテムみたいな感じです!」
■森 ひかる / Hikaru Mori
1999年7月7日生まれ、東京都出身。4歳から競技を始める。2013年の全日本選手権で、史上最年少の14歳で初優勝。高校1年時に地元を離れ、トランポリンの強豪である金沢学院東高(現・金沢学院高)に転入。金沢学院大学へ進学後、18年のアジア大会で個人銀メダルを、同年の世界選手権では日本人史上初のシンクロナイズド金メダルを獲得。19年の世界選手権では日本勢男女通じ初の個人金メダルを獲得した。また、22年の世界選手権では日本人初となる、個人・シンクロナイズドの2種目での金メダルを達成している。五輪は21年東京、24年パリと2大会連続出場。パリ大会では6位入賞を果たす。25年1月より練習拠点をイギリスに移す。
(W-ANS ACADEMY編集部・長島 恭子 / Kyoko Nagashima)
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