五輪1年前の疲労骨折 長く続いた“謎の痛み”…医師から告げられた瞬間、冷静に受け止められた理由――プロフィギュアスケーター・宮原知子さん
「INTERVIEW / COLUMN」記事
五輪1年前の疲労骨折 長く続いた“謎の痛み”…医師から告げられた瞬間、冷静に受け止められた理由――プロフィギュアスケーター・宮原知子さん
著者:長島 恭子(W-ANS ACADEMY編集部)
2026.07.02
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体重管理

プロフィギュアスケーター・宮原知子さんインタビュー前編
選手時代、全日本選手権4連覇、平昌五輪4位入賞など、輝かしい成績を残したプロフィギュアスケーターの宮原知子さん。圧倒的な練習量と安定した演技から『ミス・パーフェクト』と称された宮原さんでしたが、五輪出場を目指していた19歳の時、疲労骨折により戦線離脱しました。当時、骨密度の低下や月経異常も見られたという宮原さんに、ケガに直面し、どのように体と向き合い、何を学んだのかを伺いました(前後編の前編)。
◇ ◇ ◇
――2017年1月、フィギュアスケートの2016-17シーズン中に左股関節を疲労骨折されました。当時の宮原さんにとって、どのような時期だったのでしょうか?
「当時はちょうど、2018年の平昌五輪のプレシーズンにあたりました。前回のソチ五輪(2014年)のプレシーズンはジュニアからシニアに上がったばかり。自分が五輪に行けるとは全く思っていなかったんですね。それからシニアで戦い続けて4年が経ち、16-17は『やっと五輪に届くレベルに来た』という時期でした。
平昌大会に向けた五輪の最終選考は17年12月。自分の中でも自信が出てきた頃でしたし、(五輪出場を)絶対に逃したくないという気持ちで本当に切羽詰まっていたというか。一番大事な時期でした」
――特別なシーズンだったゆえに、例えば練習やトレーニング量が増えるなど、無理をしてしまったということはあるのでしょうか?
「私は現役時代、シーズンごとに目指しているジャンプや体つきがあり、ベストな状態に持っていくトレーニングに取り組んでいました。ですから、トレーニング量や内容は五輪の有無とは関係ありませんでした。ただ、五輪を見据えていたことで、無意識のうちに運動によるエネルギー消費量の方が多くなってしまっていたということはあったかもしれません」
――疲労骨折だと分かるまで、かなり時間が経っていたそうですね。
「はい、実は1年ほど前から『謎の痛み』が時々ありました。例えば、座り姿勢からパッと立ち上がる時や、体が冷えた時などに『あれ、もしかして痛いんかな?』という軽度の痛みがある。でも、しばらく動くと痛みがなくなるので、『疲れが溜まっているのかな』と思っていたんです。
当時は痛みの原因は自分のメンタルのせいだとも思い込んでいました。疲れが溜まっているせいで、心のどこかで『練習が嫌』と感じている。そんな弱い自分が出ているんじゃないかと捉えていたんです」
――病院へ行こうと決断したきっかけは?
「長らく痛みを感じつつも、スケートはだましだましできていたのですが、ついに練習中の痛みがなかなか引かなくなったり、ジャンプ時に突然、力が抜けたりするようになってきたんです。その様子を見ていた先生や親から、『いくら動けるとはいえ、さすがに痛みが長すぎないか?』と言われ、病院で検査を受けることを決めました」
診断を受けて真っ先に思った「しゃあない!」

――五輪のプレシーズンという大事な時期だけに、疲労骨折と分かり、焦りや不安も大きかったのでは?
「それが、真っ先に思ったのは、『しゃあないな』でした。骨折しちゃったことは取り返しがつかないし、『しゃあない!』と(笑)。
私が疲労骨折を起こしたのは、股関節の『臼蓋』というところで、MRIでも写りにくい位置でした。そのため、最初は『本当に疲労骨折なのかな?』とも思いましたが、痛いし、MRIにも白い影がある。『とりあえず安静にしないと治りません、練習もできません』と医師から言われ、『そっか、そうなんですね』と受け止めました」
――とても冷静に受け止められたのですね。
「そうですね。やはり、1年以上痛みを我慢していたので、疲れていたのかもしれません。特に動き出す瞬間の痛みに対してかなりストレスを感じていましたから、とにかく治したい気持ちが強かったんです。
むしろ炎症が起きていることが分かったことで『しっかり痛みなく滑れるようにするには休むしかないだろうな』と受け入れられたのだと思います。それに、最終選考会まで1年あった。当時は誰にも言わなかったのですが、『ここで1か月休んで痛みさえ取れれば、五輪に行けるんちゃう?』という謎の自信もあったんです。まったく根拠はなかったのですが(笑)」
――医師からは治療を進めていくうえで、どのような提案がありましたか?
「JISS(国立スポーツ科学センター)内のクリニックで診察を受けた際、『まずは骨に栄養を行かせましょう』という話になりました。安静にしている間にしっかり栄養を摂って、体重を増やす。最初は体脂肪がつくけれど、その後、必ず骨に栄養が回る。そうしないと治らないですよ、と言われました。リハビリを進めるにあたりJISSで栄養指導も受けましたが、バランス良く摂ることを一番意識するようになりました」

――「体重を増やす」という話には、特に抵抗はなかったのでしょうか。
「いえ、栄養を蓄えなければいけない時期だと頭では分かっていても、リハビリ中は滑れないしジャンプもできないので、心のどこかに『太りたくない』という自分がいました。
フィギュアスケートのジャンプは筋肉のパワーだけでなく、タイミングを使って跳びます。当時の私は筋力よりもタイミングを重視した跳び方をしていたので、物理的に体重が軽いほうがやはり簡単に跳べますし、回れてしまうんです。
その感覚が体に染み付いているため、少しでも体重が増えると、体に振り回される感じがしたり、重さで体が浮いてこなかったりする。そうなる自分がすごく嫌でした。また、ジャンプが跳べなくなると『スケートの調子が悪い=うまくできない』と、どんどんネガティブな方向に繋がってしまう。ですから、体重は常に厳密にコントロールしていました」
――栄養指導を受け、食事量はどのように変化しましたか?
「食事はリハビリテーションを行っていたNTC(ナショナルトレーニングセンター)の食堂で摂っていましたが、ビュッフェスタイルなので、指定されたエネルギー量の食事を自分で摂って食べていました。量に関してはもともと少なくはなかったのか、『こんなにたくさん食べなければいけないんだ!』とは感じなかったんです。
ただ、10代の頃は『この体重でないと跳べない』と思い込んでいたんですね。ですから、普段はしっかり食べるけれど、試合が近づいてくると、本番の時の目標体重から逆算して、体重を落としていく、という考え方でした。
ですから栄養指導を受けるなかで『試合前でもこれだけ食べなければいけないの?』という不安はずっとありました。また、絞れてくると動きやすい、というマインドだったので、ケガをするまでは減らして、減らして、という方向に無意識に行動していた気がします」
(後編に続く)
■宮原 知子 / Satoko Miyahara
プロフィギュアスケーター、日本スケート連盟理事。1998 年3月26日生まれ、京都府出身。4歳でスケートに出会い、5歳からスケート教室に通う。7歳でアメリカ・テキサス州ヒューストンから京都に戻り、濱田美栄コーチの元で指導を受ける。2013-14シーズンにシニアデビュー。2014~17年の全日本選手権で4連覇、世界選手権では15年に2位、18年に3位となり、18年平昌五輪で4位入賞を果たす。22年3月、競技引退を発表。同年4月、スターズオンアイス・カナダツアーに日本人で初めてメインキャストとして参加した。現在、プロフィギュアスケーターとして数々のアイスショーに出演するほか、解説者としても活躍する。
(W-ANS ACADEMY編集部・長島 恭子 / Kyoko Nagashima)
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