「INTERVIEW / COLUMN」記事
4度の五輪出場を経て伝えたい「未来は1日1日の積み重ね」 かつて胸に刺さった名言とは――バレーボール・荒木絵里香さん
著者:長島 恭子(W-ANS ACADEMY編集部)
2025.12.18
キャリア

「女性アスリートの人生設計」特集・荒木絵里香さん(バレーボール)インタビュー
人生の先輩たちはどんな風に競技や自分の将来と向き合い、進むべき道を選択してきたのか――。多様化する女性アスリートの姿から、自分らしい未来やライフプランについて考える「女性アスリートの人生設計」特集の第1弾は、4大会連続の五輪出場を果たした元バレーボール日本代表選手の荒木絵里香さんのインタビュー。現役時代に妊娠・出産を経験し、競技引退後は大学院に進学。そして現在は様々なスポーツ団体の理事を務めるなど、多くの経験とキャリアを積む荒木さんに、学生時代の話から、女性アスリートの未来像についてまで伺いました!
◇ ◇ ◇
――荒木さんが「将来、バレーボール選手になろう」と心に決めたのはいつでしたか?
「小学生の頃から、将来、バレーボール選手になりたい、五輪に行きたいという夢を描いていました。でも、本気で考えたのは高校3年生の時。全国大会(春高バレー)で初めて、自ら立てた『優勝』という大きな目標を達成したことがきっかけです。優勝した瞬間、心が震えて、初めて味わうような感情を経験しました。その時、『こんな感情をもっと高いレベルで経験したい!』と思い、Vリーグに進もう、そして本気で五輪を目指そうと決めました」
――では、進路を決めるギリギリまでVリーグに進むことは考えていなかったんですね。
「そうですね。バレーボール中心の高校生活でしたし、Vリーグに進む道を描いてはいましたが、当時はちょっと怖いというか、自信がないというか、『自分には無理じゃないか』というマインドだったんです。
だから、優勝を決めるまで大学進学が第一希望。早稲田大か筑波大に行きたいと考えていたので、大学推薦をもらうために『この科目で◯点以上取ればいけるかな』とか『バレーボールでこのぐらいの実績を残すといいんだ』とか、よく評定平均の計算をしていました(笑)。
高校生の読者のなかにも、部活動を一生懸命にやりながら勉強もして、『大学の推薦を取ろう!』と考えている方は少なくないと思います。部活も勉強も、いいモチベーションを保てますよね」
――実際、現役引退後の2022年、37歳で早大の大学院に入学します。高校時代から、頭にあったんですね。
「はい。父親や高校の恩師が早大出身だったこと、そして高校バレー部の2つ上の先輩が早大に進学したのを見て、『自分も頑張れば行けるんだ』と思うようになりました。
卒業後の進路を決める段階で実業団か大学か迷いましたが、父親から『大学はいつでも行けるよ』と言ってもらえたので、そこからはバレーボールに全振りです(笑)。でも、父の言葉は常に頭にありました。また、現役時代も引退した先輩が大学院に進んでいる姿を見ていたので、ずっと自分のなかに大学に行く、という希望はありました」

――バレーボール選手になろうと決めた時、選手としてどんな目標がありましたか?
「絶対に達成しよう、という3つの目標を持っていました。日本代表になること、五輪に出場すること、そして海外でプレーすることです。
高校卒業後、最初のチーム(現SVリーグ・東レアローズ滋賀)に入団した時に、その3つの目標をチームのスタッフに宣言したんです。高校を出たばかりの何もわかっていない選手の言葉ですから、たぶん、聞いているほうは軽く受け流す感じだったと思います(笑)」
――高校時代に掲げた目標を、着実に達成してきたんですね。
「いえ、着実と言えるほど順風満帆ではありません。時には3つの目標だけでは突っ走れない時期もあり、這いつくばりながら、必死に歩んできました。
五輪に出場したいと思っても、代表選考で落とされることが続き、競技を頑張れなかったり、頑張りたいけど体に異変が出たりした時期もありました。そんななか、『そもそも、なぜバレーボールをやっているのか』『自分にとってバレーボールをする価値とは何なのか?』と立ち返ることがあったんです。その時に、『自分が競技を続けているのは、五輪に行くためではなく、バレーボールが好きで上手くなりたいからだ』と気づきました。
以降、考え方がすごく変わりましたね。確かに目標は大事。でも、『どうなりたいか』よりも、『どうありたいか』に重きを置くようになったんです。今思うと自分は本当に、バレーボールを通していろんなことを学んだり、成長する機会を得ていたと感じます」
気持ちが腐っていた時に“刺さった”名言

――現在、女子アスリートたちの競技とライフイベントの両立を応援する組織、一般社団法人MANの代表理事を務めています。活動を通し、いろいろな競技の女性アスリートと接すると思いますが、自身の現役時代と比べて、選手たちの生き方の選択に変化を感じますか?
「はい、明らかに女性アスリートの選択肢は広がっていると感じます。例えば、私のように結婚後や出産後も競技を続けるアスリートも少しずつ増えてきましたし、アスリートであると同時に、他に事業を持っていたり、社会貢献活動にすごく取り組んだりしている人もたくさんいる。自分のやりたいことをやりながら、生きるアスリートが増えているとすごく感じます。
男性と比べるわけではありませんが、今は興行的に見ると、女性競技の方がどうしても規模が小さい。でも、個々の選手たちからはものすごくエネルギーを感じます」
――そのエネルギーが、もっと多くの方に伝わるといいですね。
「そうなんです。今の日本は女性の社会進出という視点で言うと、まだまだ性差のない雇用形態や、女性役員の比率の引き上げといった課題があります。そんななか、スポーツだから解決できることも絶対にあると思う。
私はMANの活動を通じて、『出産っていいよ』とか『ママになったアスリート、最高だよ』と言いたいのではありません。自分の描く未来のために今何ができるのか、どんな準備をすればいいのかを考える力を伝えたい。私たちは自分で思う以上に、選択肢をいろいろ持っているし、選択した道を歩んでいける可能性があるんだ、と知ってほしい。その一つの姿として、『出産や子育てをするアスリートもいるよ』と言うことです。
私たちがスポーツ界の持つパワーやエネルギーを発信していくことで、部活動に取り組む学生をはじめスポーツをする女性たちはもちろん、スポーツ界の枠を超えていろいろな方に、ポジティブなエネルギーを受け取ってもらえるよう頑張りたいです」
――最後に、未来ある女性アスリートたちに、荒木さんが伝えていきたいことは?
「皆さんも、将来のことがすごく気になったり、考え込んだりすることってありますよね。私も今日お話ししたように、学生時代からずっと、夢とか目標とか、いろいろな未来を追っかけていたんですね。
でも、思い描いた目標に届かず気持ちが腐っていた時、胸にグサッときた言葉があります。それは、1990~2000年代に活躍したイタリアのサッカー選手、ロベルト・バッジョ氏の『今を戦えない者に、次や未来を語る資格はない』という言葉です。『五輪に行きたい。それなのに試合に出られない』と、ずっと文句ばかり言って頑張れていなかった私はその言葉を知り、 今の自分と向き合うことに気づきました。
未来を描くことも、そのために準備をすることもすごく大事です。でも、まずは今あることに一生懸命、取り組むことがこの先のどんな未来にも繋がっていく。矛盾しているように聞こえますが、やっぱり未来は1日1日の積み重ねです。そのことが一番大事だということを忘れないでほしいです」
(W-ANS ACADEMY編集部・長島 恭子 / Kyoko Nagashima)
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