病院に通うだけで「不妊治療」はおかしい 公表決断の理由、自分のために使った「妊活」の2文字――ゴルフ・有村智恵「女性アスリートとライフプラン」
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病院に通うだけで「不妊治療」はおかしい 公表決断の理由、自分のために使った「妊活」の2文字――ゴルフ・有村智恵「女性アスリートとライフプラン」
著者:金 明昱
2024.03.05
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「THE ANSWER的 国際女性ウィーク」4日目 女性アスリートとライフプラン/有村智恵インタビュー後編
「W-ANS ACADEMY」の姉妹サイト「THE ANSWER」は3月8日の国際女性デーに合わせ、さまざまな女性アスリートとスポーツの課題にスポットを当てた「THE ANSWER的 国際女性ウィーク」を今年も展開。「“つながり”がつくる、私たちのニューノーマル」をテーマに1日から8日までアスリートがインタビューに登場します。さまざまな体験をしてきたアスリートといま悩みや課題を抱えている読者をつなぎ、未来に向けたメッセージを届ける内容を「W-ANS ACADEMY」でも掲載します。
4日目は2000年代後半から日本女子ゴルフ界を長年牽引してきた有村智恵(フリー)が登場します。テーマは「女性アスリートとライフプラン」。結婚・妊娠・出産・育児など、女性にはキャリアに影響を与えるライフイベントが多く存在する。「妊活」公表を経て、36歳で出産を控える有村が語る、1人の女性アスリートとしての人生設計。後編では、22年11月にSNSで「妊活」を公表した理由について明かした。センシティブな話題を発信したからこそ見えたもの、そして大好きなゴルフと歩み続ける未来へ思いを馳せた。(取材・文=金 明昱)
◇ ◇ ◇
2021年12月に一般男性と結婚した有村智恵は、22年11月にインスタグラムで「妊活に専念する」と公表した。“引退”ではなく、休養であることも強調していたが、改めて35歳のタイミングで公表した理由について聞くと、はじめに「ひと昔前は、『女性アスリートは結婚したらダメになる』って必ず言われていたんです」と苦笑いしながら、こう続けた。
「結婚したらダメになるって、まるで何かの“呪いの呪文”かのようですよね(笑)。私はその言葉が本当に不思議でした。一方で男性アスリートは結婚したら成績が上がるとか言われて、評価も上がる。女性が結婚したら結果が悪くなると言われるのは、理解できませんでした」
“結婚したらダメになる”とは実に根拠のない言葉でもある。裏を返せば女性アスリートは結婚したらいずれ妊娠し、出産すると子育てに追われ、引退せざるを得ない――というステレオタイプ化された概念が、日本社会全体に蔓延していたからとも言える。
「それこそ、結婚とゴルフは両立できないと決めつけるのは根拠のないものですが、ただ、妊娠や出産に関しては、どうしても年齢が関係してきます。自分が妊娠と向き合うまではまったく意識していなかったんです。35歳になっても『(選手として)まだまだやれるよ』という言葉をもらうことが多かったのですが、それは特殊な世界にいるから。自分のライフプランを考えた時に、ゴルフもしたいけれど、子供を持ちたいと思った時、どうしたらいいのかと思い婦人科系の病院でいろいろな相談もしました。そこで高いハードルがあるという現実を突きつけられたんです」
公表して分かった妊活への固定観念
妊活を発表したのは自分の年齢と真剣に向き合うことに加えて、「自分のため」というのが一番大きな理由だったという。
「SNSなどでいろんな意見も上がってくると思ったのですが、理解の声が圧倒的に多かったですし、自分自身がいろんな活動をしやすいように、という思いがあったからです。仕事をするにしても、試合に出るにしても休んだ時に、その理由を毎回聞かれるでしょうし、妊活で休むとなると仕事ができない時期が圧倒的に多いので、オファーをすべて受けるわけにもいきません。何も説明せずにお断りするのもおかしな話ですし、気持ちよく過ごしておきたいという思いから公表しました」
また、公表することで分かったのは、同世代の選手たちに妊娠に関する知識がほとんどなかったということだ。“妊活”というワードから連想されるのは、触れてはいけないセンシティブな話題という固定観念だ。
「年齢の話や妊娠・出産の話題って、男性は触れづらい話題ですし、女性同士でも難しい部分もある。でも、そうした現実やリアルがあるということを知るのは大切なことかなと思います。私のように当事者だからこそ言えることもあると思っていますから。もちろん、すべてをさらけ出したいわけではないですが、体が資本の職業でもあるプロゴルファーには、かなり見失いがちな部分でもあるので、知ってもらいたいというのもあります」
ちなみに有村は、“不妊治療”という言葉を使っていない。これにも確固とした理由がある。
「妊活にはステップアップして、いろいろなことを試す前に病院に通わなきゃいけない環境があります。なので、“不妊”という言葉を自分に向けて使うことには、すごく抵抗がありました。そもそも自分は不妊だとは思っていなかったですし、病院に通うだけで不妊治療というのもおかしい。世間に与えるイメージやインパクトも強いワードですよね。それならポジティブな言葉のほうがいいですから」
今でこそ第一線から退き、休養、出産を経て再びツアーに復帰する選手が増えつつあるが、30代の選手のなかにはシード権を持たないが試合に出たいという独身の選手も数多くいる。国内女子ツアーには45歳以上が対象の「レジェンズツアー」はあるが、30代の選手が出られる試合はレギュラーツアーか下部の「ステップ・アップ・ツアー」になる。
これもQT(予選会)ランキングがなければ、出場権利がないことから、若手にはじき出された30代の選手たちは、出られる試合がなければ、いわば職場を失った状態になる。そんな現状を見かねた有村は22年から自らが主導し、30歳以上のプロゴルファーによるワンデートーナメント「KURE LADY GO CUP」を開催している。
「プロゴルファーだけれどシードを持たないとか、子育てしながらも試合に出たいという選手は多いんです。そんな悩みを抱えている選手たちの現状を知ってもらうこともそうですが、自分自身や私なりにこうした形で協力できればという思いでやっています。みんなが活躍できる場所を増やすためには、まずは環境作りが本当に大切だと感じています」
大好きなゴルフで周囲の人を幸せにしたい
いよいよ目前に迫る出産だが、その先のこともしっかりと見据えている。
「私は根本的にゴルフがすごく好きなんですよ。試合に出れば結果を残したいという思いはもちろんありますが、楽しいからっていう思いが一番強いかもしれません。テレビや解説などの仕事でもいろんな発見がありますし、また違った目線でゴルフが見られる。今、復帰している選手たちも絶対にそうだと思います。その楽しさは、他に変えられないからこそ、ゴルフと向き合っている方が多いんだろうなと思います」
自分自身のゴルフ人生を楽しむことが最優先。そしてもう1つ、有村は自分だけでなく、周囲の人たちをゴルフを通して幸せにしたいと本気で思っている。
「自分自身が動くことで、ゴルフの仕事の可能性が広がったり、ゴルフ界で様々な分野で活躍する人が出てきて、輪が広がり、何かが変わるのであれば、いろいろな活動を積極的にやっていきたい。だから、完全に引退するという気持ちはまったくありません。これからも自分がやりたいことを信じてやっていくだけです」
その力強い言葉は、彼女が持ち合わせるアスリートの本能のようにも感じられた。出産後の復帰も十分に想像できる。女子ゴルフ界をより良いものにするための思考と行動は、いずれ大きく花開くに違いない。
(「THE ANSWER的 国際女性ウィーク」5日目はバレーボール・迫田さおりさんが登場)
【ゴルフ・有村智恵さんの「人生で救われた、私のつながり」】
「私自身はゴルフでつながった縁しかありません。今、周りにいる人たちは、みんなゴルフというスポーツを通じて、つながった人たちばかりですから。妊娠、出産のことを考えられるようになったことも、母としてやっている方や助言をくれる人たちが今の自分の軸となり、支えとなっています。もう1つ、宮里藍さんは一番の相談相手でした。私の決断について、いつも背中を押してくれて、肯定の言葉をくれる。米ツアーに行く時も相談し、妊娠と出産もすでに経験されているので、妊活や妊娠の話をするたびに勇気をもらいました。プロゴルファーとしての体の感覚などもアドバイスしてもらっているので、これからも支えていただくと思います」
※「THE ANSWER」では今回の企画に協力いただいた皆さんに「あなたが人生で救われたつながり」を聞き、発信しています。
■有村 智恵 / Chie Arimura
1987年11月22日生まれ。熊本・熊本市出身。10歳からゴルフを始め中学時代に全国大会優勝を果たすと、名門・東北高に進学。卒業後の2006年のプロテストに合格した。08年6月のプロミスレディスでツアー初優勝を飾ると、翌09年は年間5勝を挙げて賞金ランク3位に躍進。12年9月の日本女子プロゴルフ選手権コニカミノルタ杯で国内メジャー初制覇を果たした。13年から米ツアーに挑戦し、16年に日本ツアーへ復帰すると、18年のサマンサタバサガールズコレクションで6年ぶりの復活優勝を遂げた。21年12月に結婚を発表。22年11月に妊活で休養を宣言し、昨年11月に第1子妊娠を発表した。日本ツアー通算14勝。近年は30歳以上の女子プロゴルファーの大会「KURE LADY GO CUP」を立ち上げ、ゴルフ番組MCを務めるなど活躍の場を広げている。
(金 明昱 / Myung-wook Kim)
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