「INTERVIEW / COLUMN」記事
フィットネスクラブから競技トップの舞台へ 背中を押した「一度きりの人生なんだから」の言葉――S&Cコーチ・柴田昌奈さん
著者:長島 恭子(W-ANS ACADEMY編集部)
2026.05.13
キャリア

特集「スポーツ界のお仕事」第2回、ストレングス&コンディショニングコーチ・柴田昌奈さんインタビュー前編
スポーツ界で働くのは、選手だけではありません。スタッフや審判など、多くの人たちが選手たちと一緒に努力し、スポーツを作り上げています。今回は「スポーツ界のお仕事」特集として、ストレングス&コンディショニング(S&C)コーチの柴田昌奈さんにインタビュー。前編では、S&Cコーチという仕事に至った経緯や、バレーボールの実業団チームに入った当時のエピソードなどを聞きました。(取材・文=長島 恭子)
◇ ◇ ◇
――S&Cコーチとはどのようなお仕事でしょうか?
「スポーツトレーナーという仕事の一つで、アスリートの競技パフォーマンスを最大化する専門スタッフを指します。筋力やパワーを中心に、スピード、持久力、可動性など、すべての体力要素を高めるトレーニングプログラムを設計・指導する仕事です。フォーカスする試合やシーズンに向けて逆算し、選手が最高の状態で戦えるように準備する役割を担っています。ちなみにスポーツトレーナーには他にも、怪我をしたアスリートを復帰に導く『アスレティックトレーナー』や、一般の方の運動指導も行う『パーソナルトレーナー』など、専門領域によって様々な職種に分類されます」
――具体的にはどんな風にトレーニングを進めるのでしょう?
「個人競技の場合は個々でプログラムを組みますが、団体競技の場合はチーム全体用、若手選手用、ベテラン用、あるいは怪我をしていて特定の動きができない選手用に個別のプログラムを組みます。ほかにも、フィジカルテストのデータ集計や分析、日頃のウォーミングアップやクールダウンの設計・指導まで含めて、選手一人ひとりの状態や競技特性に応じて、パフォーマンス向上につながるよう総合的にトレーニングを進めていきます。
以前、Vリーグ(現SVリーグ)のNECレッドロケッツでS&Cコーチをしていましたが、高卒の新人選手から日本代表選手まで、選手の力や経験の幅もかなり大きいので、それぞれどういうトレーニングをやったらいいかは、日々勉強しながら経験を重ねて対応していきましたね」
――そもそも、なぜS&Cコーチを目指したのでしょうか?
「小さい頃から体を動かすことが好きだったので、高校まで陸上部に所属し、投てき種目をやっていました。でも、選手としてより上のレベルにいくのは難しいと考え、大学は体育学のある東海大学に進学しました。そこで『学生サポートスタッフ』という研究会に入り、女子ラクロス部や近隣の高校のバスケットボール部に帯同して勉強を始めました。研究会には、ケガ予防のテーピングなどメディカル分野の勉強を行うアスレティックトレーナー部門と、競技パフォーマンスを向上させるためのフィジカル強化の勉強をしていくS&C部門があったんですが、仲良しの友人が『S&Cに行く』と言うので、『じゃあ私も!』とノリで決めたんです(笑)」

――もともとサポートする側に興味があったのですか?
「いえ、サポート側に回りたいというよりも、当時は『学校の先生になって部活動を見たい』と何となく考えていたんです。S&Cの勉強は本当に楽しくて、大学の4年間は人生で一番勉強したかな、と思います。もちろん今もアップデートし続けていますが、今の知識のベースになっているのも当時の学びですね」
――卒業後は、念願の教員の道へ進まれたのですよね。
「はい。私立の中高一貫校で保健体育の先生になりました。でも、4年後に退職してしまいます。大学時代の私は、教員になったら『体育の授業と運動部の顧問を受け持ちたい』と浅はかに考えていました。でも実際は、日々の事務作業や校務分掌、保護者面談など、学校運営に関わる仕事が山のようにあります。部活も自分のやりたい競技を必ずしも持てるわけではありません。
それに当時の私は、自分の理想像を生徒に押し付けてしまっていました。例えばマット運動の順番待ちでふざけている生徒がいると、『なんでちゃんと待てないの?』と規律ばかり求めてしまい、体を動かすことの楽しさを伝えられていなかった。想像とのギャップやストレスで体も壊してしまい、辞める決断をしました」
――その後はどのようにキャリアを歩まれたのですか?
「回復後、やはり体を動かす仕事がしたくて、ご縁があって民間のフィットネスクラブ(ジェクサー)に就職しました。この仕事はとても性に合っていて、めちゃくちゃ楽しかったですね。
体操スクールで幼稚園児から小学生までを教え、大人の方には、スタジオレッスンを教えていました。フィットネスクラブでの仕事は、レッスンの受講者が増えたりと、ダイレクトに反応が返ってくるし、頑張った成果が数として可視化されます。『ここで定年まで全うしよう!』と本気で思っていました」

――ところがバレーボール実業団のNECレッドロケッツのトレーニングコーチに転身されます。
「ある休日の朝、大学時代にお世話になった方から『バレーボールのトップリーグのチームにトレーニングコーチの空きが出たからやらないか』と電話をもらったんです。バレーボールは未経験でしたが、『競技に詳しい人よりも、トレーニングが好きでコミュニケーションが取れる人が欲しい』と。当時31歳になっていたので悩みましたが、職場の上司や両親が『ダメなら戻ってくればいい。一度きりの人生なんだから挑戦してみなさい』と背中を押してくれました」
――未経験の競技、しかもトップリーグに入ることに不安はありませんでしたか?
「それはありませんでした。逆に競技を知らないからこそ、疑問に思うことを素直に聞けましたし、スタッフや選手たちも優しく教えてくれました。
ただ、最初の頃はトップ選手とどう接していいか分からず戸惑いました。でも、当時のチームの柱であり日本代表だったスギさん(杉山祥子選手)がすごく可愛がってくれ、トップカテゴリーでやっていくために必要な気配りや視野の広さを学ぶことができました。スギさんがいなかったら今頃、『自分の仕事だけやればいいや』という舐めた考えを持っていたかもしれません。本当に感謝しています。
また、NECでは3年目の2014-15シーズンに10年ぶりの優勝を経験しましたが、トレーナーにとっても“成功体験”って本当に大事だな、と感じました。失敗から学ぶこともありますが、成功することで『もっとアップデートしていこう』という原動力になります」
■柴田 昌奈 / Akina Shibata
大学時代に所属した研究会でストレングス&コンディショニングを学び、卒業後は教員の道へと進んだものの、4年で退職してフィットネスクラブに就職。31歳の時にバレーボール・NECレッドロケッツのトレーニングコーチに就任すると、2017年からは東京五輪に向けたバレーボール女子日本代表へ。東京五輪後には柔道女子日本代表のS&Cコーチとして、角田夏実のパリ五輪柔道48キロ級金メダルに貢献。現在は独立し、個人事業主として複数競技の指導を掛け持ちしている。
(W-ANS ACADEMY編集部・長島 恭子 / Kyoko Nagashima)
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