「INTERVIEW / COLUMN」記事
不振を機に「明るい色柄のスポーツブラを着けるように」 アンダーウェアでも変わる女子選手のパフォーマンス
著者:W-ANS ACADEMY編集部
2023.08.16
アンダーウェア

プロスノーボーダー鬼塚雅「スポーツ時のアンダーウェア」トークセッション
6月28日、プロスノーボーダーの鬼塚雅選手(ISPS)が、運動部の女子学生や女性のスポーツ愛好家を対象にしたオンラインイベントに出演。「スポーツ時のアンダーウェア」をテーマに、約1時間のトークセッションを行いました。
「練習や大会中だけでなく、日常生活もほぼほぼスポーツブラで過ごしている」という鬼塚選手。思春期の頃から長年、スポーツブラを愛用し、ストレッチ用、筋トレ用、雪上トレーニングや大会用と、運動強度によってスポーツブラを細かく使い分けているほどのこだわりです。
「スノーボードは回転動作が多く、例えばジャンプ前の踏み切りで胸が揺れると、重みで重心がずれてしまいます。回転時に体の軸を作るためには、胸の揺れをしっかり押さえてくれるスポーツブラは欠かせません」と、体を下着で整える大切さなどを語りました。
イベント終了後、インタビューに答えてくれた鬼塚選手は「昨シーズンから、大会時に着用するブラの選び方が変わった」と回答。「試合では明るい色や柄ものをつけて、気分を上げるようになった」といいます。
「大会中にうまくいかないな、と感じたら、些細なことでもいつもとは『何か』を変えると、気持ちが切り替わります。ベーシックな黒のスポーツブラを着けるときももちろんありますが、調子がなかなか上がらないときはスポーツブラを明るい色や柄物にするだけでもモチベーションが上がるんです。それに、明るく前向きな気持ちで臨むと、いいパフォーマンスにもつながります」
しかし、22年の北京冬季五輪までの彼女は、「明るく前向きな気持ち」で競技に臨む姿勢を失っていたといいます。
「〇〇をやらなきゃいけない」の考え方に囚われていた北京五輪まで

5歳でスノーボードを始めた鬼塚選手は、小学1年で初出場となる国内大会でいきなり優勝。以降、「天才スノーボード少女」と騒がれました。
15年の世界選手権では、大会史上最年少となる16歳3か月で、女子スロープスタイルで優勝。18年の平昌大会で初の冬季五輪出場が決まると、メダル獲得への期待が高まりました。
しかし、平昌ではビッグエアで8位、スロープスタイルでは19位で敗退。思うような結果を残せず、一転、北京大会までの4年間、苦しむことになります。
「北京までは常に『〇〇をやらなきゃいけない』『〇〇をするべき』という考え方に囚われていました。
私は性格的に、目の前のことに集中し過ぎたり、細かいことを気にし過ぎたりしてしまうんですね。競技においてそれはプラスに働く場合もありますが、北京大会まではすべてがネガティブに働いてしまいました」
平昌大会後は休みも返上。プレーヤーとしてのネガティブな要素を探しては一つひとつつぶしていく、という『作業』を、毎日、繰り返しました。次第に調子のよい大会でも粗を探すようになり、自分自身を追い詰めました。
「例え成功したことがあっても、ダメだったところしか目がいかず、自分で自分を褒められなくなっていました。マイナス点を潰す作業も大事です。でも、今日は何をすべき、明日は何をすべきと、小さいところばかり見すぎて、目標を失ってしまった。
また、大会前は気持ちが落ち込みやすくなり、次第に大好きだったスノーボードが楽しく感じなくなりました。五輪でメダル獲得どころか、本大会を目指せるかどうかという状態でした」
22年、北京大会を迎えてからも、状況は変わりませんでした。「次こそ、次こそ」。最高のパフォーマンスを見せるどころか、1本終わるたびに修正点をつぶすことで頭がいっぱいでした。
北京後から「明るい色柄のスポーツブラを着けるように」

「今、振り返っても、北京大会で何をしていたのかの記憶がありません。一つ一つのシーンが記憶に残らないぐらい、目の前のことしか考えられなかった」
北京大会はビッグエアが11位、スロープスタイルでは予選敗退に終わりました。疲弊した鬼塚選手はしかし、ともに大会に臨み、メダルを獲得した冨田せな選手(女子ハーフパイプ銅メダル)、村瀬心椛選手(女子ビッグエア銅メダル)の姿を目前にしてやっと、4年間の悪夢から目覚めることになります。
「大会中は、『色んなことを犠牲にしてきたから』と、大事なところで自分を追い込み、プレッシャーばかり感じていた。でも、メダルを取った選手たちの姿は、本当にスノーボードが大好きで、大会を楽しんでいたように見えました。
この考えをやめない限り、もうスポーツは続けられない。スノーボード自体を楽しめるような選手じゃないと、やっぱり五輪でメダルなんて取らせてくれないし、彼らと同じ景色は見られない、と感じました」
結果が同じなら、明るい気持ちでもう一度、挑もう――。自身を縛り付けていたネガティブな思考に気づくと、鬼塚選手の気持ちは一気に切り替わりました。
「だから北京後から、大会中は明るい色柄のスポーツブラを着けるようになったんです。これも、スノーボードを楽しみたい、という気持ちの表れなんです」
今年3月、ジョージアで開催された世界選手権に出場した鬼塚選手は、ビッグエアで準優勝、スロープスタイルで3位の好成績を記録。2種目でメダルを獲得し、最高の形でシーズンを締めくくりました。
「昨シーズンは、課題を潰しながらも、新しいことが出来たときの楽しさを思い出せたシーズンでした。
今の目標はもちろん、2026年のミラノ五輪出場です。次こそはメダルを獲りたい。そして、記憶に残る大会にしたいですね」

(W-ANS ACADEMY編集部)
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