「INTERVIEW / COLUMN」記事
「断ったら一生後悔する」 夢のラグビー業界へ、背中を押した英国での駐在経験――リコーブラックラムズ東京広報・野田朝子さん
著者:長島 恭子(W-ANS ACADEMY編集部)
2026.04.28
キャリア

特集「スポーツ界のお仕事」第1回・リコーブラックラムズ東京広報担当・野田朝子さんインタビュー
スポーツ界で働くのは、選手だけではありません。スタッフや審判など、多くの人たちが選手たちと一緒に努力し、スポーツを作り上げています。今回は「スポーツ界のお仕事」特集として、ラグビー・リーグワンのリコーブラックラムズ東京で広報担当を務める野田朝子さんにインタビュー。ラグビーに関わる仕事をしたいと思った理由や、実際にブラックラムズに携わるようになった経緯などを聞きました。(取材・文=長島 恭子)
◇ ◇ ◇
――現在、野田さんはリコーブラックラムズ東京の広報を担当しています。普段、広報担当としてどんなお仕事をされていますか?
「まず私は株式会社リコーの社員として、ラグビー事業室で広報を担当しています。現在、『広報・プロモーションチーム』は3人体制で、他に動画担当、SNS担当がいますが私は主にメディア――テレビや新聞、雑誌、ウェブメディアなど――の取材対応やホームページの編集、ニュースレターの作成などが主な業務です。
また、リコー社内向けにチームの認知度を上げ、ラグビーファンを増やすような企画立案も行います。例えば、ラグビーボールを使ってのチームビルディング、入社式やファミリーデーでチームを紹介するといった内容です。
ただ、チームは少ない人数で運営しているので、広報業務以外も行います。特にチームでは『全員がホームタウン担当』という考えをもっているため、ラグビー体験会等のホームタウン活動の現場に足を運んでサポートします」
――そもそも、リコーに就職された理由を教えてください。
「大学時代の就職活動では、グローバルに展開する日本のメーカーを志しました。私の父はゼネコン業界で働いていたので、子供の頃から一緒に出掛けると、『このビルはお父さんの会社が作っているんだよ』などとよく聞いていたんですね。それで、自分が携わったものが形として世に残り、誰かの役に立つ。そんな仕事への憧れを抱くようになりました」
――入社動機はスポーツとはまったく関係がなかったんですね。
「そうですね。私は高校時代までバスケットボール部に所属していましたが、本当に一般的な部活動のレベルでしたし、特にスポーツの分野で活躍したいという考えはありませんでした。ですから、ラグビーに興味を持ったのは入社してからです。
私が入社した当時、日本のラグビーのトップは実業団リーグでした。選手たちのほとんどが、社員として働いていたので、最初はラグビー部の同期や先輩を応援しに行こう、という軽い気持ちでリーグ戦に行ってみたんです。いざラグビー場に運んでみると、たくさんの観客を沸かせている。平日は同じ社員として働く彼らが、週末は人に感動を与えたりワクワクするようなプレーをしている。その姿がすごくキラキラと輝いて見えて、心から応援したい気持ちが芽生えました。そのうち、北は新潟から南は福岡まで応援のために遠征するようになり(笑)、どっぷりとはまってしまったんです。
――ちなみに当時は社内で、どんな仕事をしていましたか?
「当時は商業用の印刷機を取り扱う海外マーケティング担当でした。海外とのやり取りをしながら商品を立ち上げていく仕事なので、途中で1回、イギリスの事業部で印刷機のプロモーションや営業支援の仕事をしていました。ラグビー愛がより深まったのは、2015年から2年間、ロンドンに駐在したことが一番大きかったです」
――ちょうどイングランドでラグビーW杯が開催された年ですね!
「そうです。ロンドン在住時に、私にとって3つの大きな出来事がありました。
1つは私のラグビー好きが現地の社員に伝わり、そのことがきっかけで会話が生まれたり、週末にラグビーの試合に誘ってくれたりと、現地のコミュニティにすんなり受け入れられたこと。言葉も文化も異なる国で、コミュニケーションツールとしてすごく助けられました。
2つ目は、ラグビーワールドカップで日本代表が強豪・南アフリカを破る『ブライトンの奇跡』を現地で体験したこと。ラグビージャージを着て街を歩いていると、南ア戦の前日までは(同じ赤白のユニフォームの)『カナダ人か?』と声を掛けられていたのに、一夜にして一変。『日本人か? この間の試合は感動した!』と声を掛けられるようになりました。ただ、その後の人生にもっとも影響を与えたのは3つ目の出来事ですね」
――それはどんなことですか?
「ロンドン在住時は同じ日本人の駐在員だけでなく、骨をうずめる覚悟で、夢を追ってイギリスに来た日本人の方たちとも出会いました。彼らと交流するなか、このまま印刷機のスペシャリストとして一生を終えることが、果たして自分の人生を豊かにするのだろうか? という疑問が初めて浮かびました。この時はそれで終わりますが、後々、人生の選択を迫られた際、この時に浮かんだ想いが背中を押してくれるんです」
駐在を終えて燃え尽きも…社内副業制度からラグビーに関わる仕事へ

――ロンドンから帰国されたのが2017年。その後、18年に『スポーツヒューマンキャピタル(SHC)』に4か月通われるんですよね。通うことを決めた理由を教えてください。
「きっかけは会社の同僚からの誘いです。当時のSHCはスポーツビジネスやスポーツ組織の経営人材の育成に取り組む組織でしたが、『スポーツの仕事に就かなくても役に立つ内容だし、時間があるなら行ってみたら』と声を掛けられました。当時の私は、一つの目標だった海外の駐在員という仕事を終え、少し、燃え尽き症候群みたいになっていたんですね。それに、ロンドンでの経験からラグビーに関わる仕事をしたいという気持ちも強くなっていました。ところが、その熱意を証明できるような実績は何もありません。
当時はちょうどラグビー界はリーグワンの発足に向けて舵を切り始めた時期。SHCで学ぶことで、もしかしたらラグビーに関われるチャンスがあるかもしれないと考え、通うことに決めました」
――業界の動きを見ながら、自分に足りないものを身につけようと考えたんですね。
「ラグビーに関わるチャンスが巡ってきたのは、それから2年後です。20年に入ると会社で『社内副業制度』が始まりました。これは、業務の20%は自分の希望する部署で仕事をしてよい、という制度です。例えば営業部で働いていたとしても、プログラミングが得意だから、中国語が得意だから、それを生かせる部署で働ける、という制度です。
そこで、ラグビー事業を担当する部署で働く希望を提出。また、SHCのスタッフが弊社のラグビー事業部のスタッフと研修で関わるなど共通の知り合いがいたため、その方の紹介もあり、ラグビー部の運営に関わるようになりました」
――ここで、SHCのつながりが生きてくるんですね。
「そうですね。企業リーグからリーグワンに移行すればラグビー部を事業として運営していかなければなりません。例えばチケットを売る、ファンクラブの会員をつのったりグッズを企画・販売したりと、スポーツチームとして運営するノウハウも必要です。そこで、社内でも『プロフェッショナルな人が必要だよね』という話になり、SHCに通っていたことで認めてもらえるきっかけになりました。
また、私がもともと、プロダクトマーケティングの仕事に就いていたこと、ラグビー好きということ、そしてリーグワン移行というタイミングなど、様々な事柄が重なり、ラグビー部に関わるようになりました」
――22年のリーグワンスタートに伴い、ブラックラムズ東京専任になったと思います。やはり待ちに待った瞬間がきた、という気持ちでしたか?
「今の部署に完全に移ったのは23年になりますが、実は最後の最後になって悩みました。当時、入社15年目を迎えていたので、そのままいけば管理職に就いたり、もう一度、海外駐在のチャンスもありました。一方、ラグビー界に移れば、キャリアとしてはまたゼロからのスタートとなりますし、お給料も下がるかもしれません。果たして、積み上げてきたキャリアを手放し、夢だけを追っていいのだろうか? いざ選択を迫られると冷静になり、めちゃめちゃ悩みました」

――ブラックラムズのスタッフになることを決断する決め手となったのは?
「最後はロンドン駐在時に感じたことを思い出し、『この先、楽しくできる仕事は何か?』『どちらの人生を選んだら後悔するか?』と考え、決断しました。海外駐在は例えば転職をするなど、今の会社では叶わなくても努力すればまた手に入るかもしれません。でも、大好きなチームとリーグワンが立ち上がる瞬間に立ち会えるチャンスは、今しかない。断ったら一生後悔する、と思ったんです。
今でも、同期が海外駐在が決まったとか、昇進したという話を聞くと、羨ましく思う気持ちはゼロではありません。でも、自分で選んだ道ですから、絶対に後悔はしたくありません。むしろ、『ラグビーの仕事をしてよかった』と思えるよう全力で頑張ろう! という気持ちで仕事に取り組んでいます」
――今、仕事をしていて、一番嬉しいと思う瞬間を教えてください。
「ブラックラムズのチームカラーは『黒』。やっぱり真っ黒に染まったスタジアムのスタンドを見た瞬間が一番嬉しいです。勝利をコントロールすることはできませんが、ファンを増やす努力は裏切りません。私たちの仕掛けで、一人、また一人と『ブラックラムズを見てみたい』という人が増えていく。その光景を見た時、毎日大変だけど、あの時決断して本当によかったと、心から思います」
【リコーブラックラムズ東京広報担当・野田朝子さんの「スポーツ界で働きたい人たち」へのアドバイス】
「スポーツ界に限らずですが、好きなことは『好き』と言い続けたほうがいいと思います。言霊ではありませんが、言葉は口に出すことで力が宿ると思うからです。私も『イギリスに駐在したい』『ラグビーが大好き』だと言い続けましたが、皆さんの言葉を聞いている人は絶対にいます。好きなこと、やりたいことを内に秘めて頑張ることも大事ですが、知ってもらうということも大事。すると、『そういえばスポーツに関わる仕事をしたいといっていたけれど、こういうのは興味あるかな?』と、誰かが拾ってくれて、そこから新たなチャンスが生まれるかもしれませんよ」
■野田 朝子 / Asako Noda
大学卒業後にリコーに入社し、商業用の印刷機を取り扱う海外マーケティングを担当。実業団リーグで活躍する動機や先輩を見て“ラグビー愛”に目覚め、2年間のロンドン駐在で思いを強める。その後、リーグワンが発足するタイミングでラグビー部に移り、広報担当に。メディア対応やホームページの編集などのほか、リコー社内向けにチームの認知度を上げるための企画立案なども行っている。
(W-ANS ACADEMY編集部・長島 恭子 / Kyoko Nagashima)
RECOMMENDED ARTICLES
おすすめ記事
2026.07.03
「あと何キロ減らせ」は危険な言葉 専門家が説く、中高生アスリートを見守る大人の役割
コンディショニング
体重管理
食事
2026.07.03
「体重が重いから跳べない」は誤解 エネルギー不足で運動能力も低下…“無理な減量”の悪影響とは
コンディショニング
体重管理
食事
2026.07.02
「この体重でも跳べるんだ」 月経異常や骨密度低下を経験、引退後に気づいた数字に縛られない体作り――プロフィギュアスケーター・宮原知子さん
体重管理
月経
2026.07.02
五輪1年前の疲労骨折 長く続いた“謎の痛み”…医師から告げられた瞬間、冷静に受け止められた理由――プロフィギュアスケーター・宮原知子さん
コンディショニング
体重管理
2026.06.16
リカバリーで大切な“湯船に浸かる”習慣 睡眠の質を高め、疲労回復を促す3つの効果
コンディショニング
What’S New
最新記事
2026.07.10
指導者から本人まで幅広く“正しい知識”を学ぶ 「女子アスリートコンディショニングエキスパート検定」第6回開催へ
コンディショニング
月経
2026.07.03
「あと何キロ減らせ」は危険な言葉 専門家が説く、中高生アスリートを見守る大人の役割
コンディショニング
体重管理
食事
2026.07.03
「体重が重いから跳べない」は誤解 エネルギー不足で運動能力も低下…“無理な減量”の悪影響とは
コンディショニング
体重管理
食事
2026.07.02
指導者から多くのことを吸収したい! コミュニケーションで大切にしていたことは?
2026.07.02
試合前に集中力を高め、メンタルを整えたい…プレッシャーや緊張への対処方法は?
コンディショニング


