「INTERVIEW / COLUMN」記事
熱中症になると「未来を失う」 専門家が警鐘、夏の運動時に意識すべき4つのポイント
著者:長島 恭子(W-ANS ACADEMY編集部)
2025.06.20
コンディショニング

特集「女子スポーツの暑さ対策」第3回、杉田正明教授が紹介する対策法
梅雨が明ければ夏も本番! この時期からの「暑熱対策(暑さ対策)」は、練習と同じくらい大切です。疎かにすれば、疲労が蓄積したり、体が動かなくなったりするだけでなく、熱中症になりやすくなる危険も……。暑熱対策特集の第3回は、暑くなり始めたら注意したいこと、意識したいことの総まとめ。長年、トップアスリートのコンディショニングをサポートする、日本体育大学の杉田正明教授に聞きました!(取材・文=W-ANS ACADEMY編集部・長島 恭子)
◇ ◇ ◇
「人間の体は深部体温(脳や内臓部など体の深部の体温。わきの下で測る体温よりも約1℃程度高い)が40℃を超えると、リミッターがかかり、いいパフォーマンスが発揮できないばかりか、熱中症になりやすくなります。また、熱中症は1回なると、回復して元通りに動けるようになったと思いきや、繰り返し発症しやすいという傾向があります。熱中症は若い競技者にとって、未来を失うくらい深刻な問題です」
熱中症について、こう切り出した日本体育大学の杉田正明先生。運動前の「少しくらい体調が悪くても大丈夫」や、運動中に「少しくらい水を飲まなくても大丈夫」という油断は厳禁、と続けます。
「熱中症を予防するには、体温を上げない(身体冷却)、体内の水分と汗に含まれるミネラルを補う(水分補給)ことが大切です。汗が出る量も、暑さの感じ方や体温上昇の度合いも個々で異なります。睡眠は十分か、水分補給は足りているか、体のほてりは残っていないかなと、自分のコンディションと向き合い、判断することが大切。『あの人はあまり水分補給をしない、汗をかいていなくても大丈夫だから私も大丈夫』と考えないようにしましょう」
ここからは、具体的な対策方法を紹介します。今年の夏はしっかり対策し、最高のコンディションで力を発揮して!
体重が2%以上減ったら給水量が足りていない証拠
暑熱対策HOW TO①
水分補給が適切かどうかを
運動前後の体重でチェック
発汗を促すため、水分補給は暑熱順化トレーニングの段階から意識を。この時、水分量が適切かどうかは、運動前後の体重測定でチェック!
「もしも練習や試合後、体重の2%(60キロであれば-1.2キロ)を超えるほど体重が減っていたら、給水量が足りていない証拠です。計測する習慣をつけることで自分の体を守り、いいパフォーマンスが発揮できます」(杉田先生)
暑熱対策HOW TO②
運動時の水分補給はスポドリがベスト
1日を通してこまめに飲む習慣をつけて
「水分補給は、喉の渇きを抑えるためではなく、汗で失った体内の水分と血液の成分を補うのが目的」と杉田先生。汗をかくと水分とともに、ナトリウム・カリウム・カルシウム・マグネシウム・鉄・亜鉛といったミネラル成分が体外に流出します。ミネラル成分は体の機能を正常に働かせたり、筋肉を動かしたりするためには必須の成分。発汗した分、補給をしないとパフォーマンスの低下や体調の悪化につながります。
「運動時の水分補給は水分、ミネラル、そしてエネルギー源になる糖質を含む冷えたスポーツドリンク(5~15℃)が適しています。逆に、短時間の間に水だけをガブガブ飲むと水中毒を起こすので危険です。また試合中、練習中だけでは補給できる水分量が限られます。前後の移動時などを含め、1日を通して『のどが渇く前に飲む』習慣をつけてください」(杉田先生)

暑熱対策HOW TO③
気温ではなく『暑さ指数』を確認
湿度の高い屋内も要注意
「湿度が高いとかいた汗が蒸発しないため、体内にこもった熱を放散できません。気温が33℃で湿度が20%程度のカラリとした日よりも、28℃で雨上がりの蒸した日のほうが危険。『いつも天気予報で気温を見ているから大丈夫』という方もいると思いますが、気温ではなく『暑さ指数(以下、WBGT。Wet Bulb Globe Temperature):熱中症の危険度を示す指標』を必ずチェックしましょう」(杉田先生)
暑さ指数・ WBGTは湿度が7割、 熱(日射しを浴びた時に受ける熱と地面、建物、人体などから出ている熱)は2割、そして気温は1割の比率で算出。実は気温よりも、圧倒的に湿度の高さが重視されていることがわかります。
「日々のWBGTは環境省の熱中症予防情報サイト(https://www.wbgt.env.go.jp/wbgt.php)で検索可能です。自分の住んでいる場所や試合会場などのWBGTをチェックしましょう。また、エアコンのない体育館で運動する場合も、湿度が上がりやすいので注意が必要です」(杉田先生)

(出典)
公益財団法人日本スポーツ協会(JSPO)
スポーツ活動中の熱中症予防運動指針(第5版)
給水するだけでは熱中症は防げない
暑熱対策HOW TO④
運動前後や運動中は
『クーリング』で体を冷やそう!
最後は体を冷やす方法。「トップアスリートはプレクーリングといって、運動前にアイスバス(冷水浴)で体温を下げてから運動に入ることもあります。全身を冷やせるアイスバスは最も効率良く効果的ですが、一般の学校やクラブチームでは設備上、難しい。その場合、プールに入る、クーリングベストを着る、水のシャワーを浴びる、水飲み場で頭に水を浴びるなども効果的です。給水するだけでは熱中症は防げません」(杉田先生)
体が熱を持ったままでいると、エネルギーを消耗。リカバリーのために、ハーフタイムや試合の待ち時間、運動後も冷やすことを忘れずに。
「疲れを持ち越すと蓄積し、熱中症の要因になります。体がほてっている時は運動後も水のシャワーや水を頭にかけるなど、クールダウンを。合わせて睡眠をしっかりとることもリカバリーや熱中症予防には欠かせません」(杉田先生)

【体の内側からクーリング】
冷えたスポーツドリンクやアイススラリー(シャーベット状のドリンク)で体の内側からクーリングを。ただし、アイススラリーの冷却効果は高いものの、お腹を下す人もいます。体調、体質に合わせて自分に合った選択を。

【体の外からクーリング】
手のひら・足の裏や両頬は、体内にこもった熱を放出する働きがあります。試合中の休憩時間や運動後は、氷を入れたバケツで手のひら・足の裏を冷やすと効率よく体を冷やせます。この時の水温は10~15℃にすること。もっと手軽に、凍らした(中身の入った)ペットボトルをハンカチ1枚で巻いて握る方法もおすすめ。それらが難しい場合は、日陰に移りうちわで仰ぎます。また、頭は熱に弱いので濡らした帽子や氷などで冷やすこと。
教えてくれたのは…
■杉田 正明 / Masaaki Sugita
日本体育大学体育学部教授、博士(学術)。日体大ハイパフォーマンスセンター長、日本陸上競技連盟科学委員会委員長、日本オリンピック委員会(JOC)情報・医・科学専門委員会サポート部門長。専門は運動生理学、トレーニング科学、バイオメカニクス。五輪、アジア大会、サッカーW杯等で様々な競技の日本代表に帯同し、科学的見地からトップアスリートのコンディショニングをサポート。高所トレーニングの第一人者としても知られる。
(W-ANS ACADEMY編集部・長島 恭子 / Kyoko Nagashima)
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