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解消された「チートデー」の不安 常に減量と向き合う柔道・角田夏実、体に送る「大丈夫」のサイン

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解消された「チートデー」の不安 常に減量と向き合う柔道・角田夏実、体に送る「大丈夫」のサイン

著者:宮内 宏哉(W-ANS ACADEMY編集部)

2025.04.02

コンディショニング

体重管理

食事

パリ五輪の柔道女子48キロ級で金メダルを獲得した角田夏実選手【写真:松橋晶子】
パリ五輪の柔道女子48キロ級で金メダルを獲得した角田夏実選手【写真:松橋晶子】

「W-ANS ACADEMY」の国際女性デー特別企画でイベント出演

 スポーツを楽しむすべての女性を応援するメディア「W-ANS ACADEMY」が国際女性デー特別企画として3月9日に実施したオンラインイベントに、パリ五輪の柔道女子48キロ級で金メダルを獲得した角田夏実選手(SBC湘南美容クリニック)が出演。「食事と体重管理」をテーマに、減量の苦労や食事面での工夫について管理栄養士・公認スポーツ栄養士の橋本玲子さんと意見交換を行いました。終了後、「W-ANS ACADEMY」のインタビューに応じ、イベントで得た学びやこれまでの経験について語りました。(聞き手=W-ANS ACADEMY編集部・宮内 宏哉)

 ◇ ◇ ◇

――大会前の1か月で6~7キロ落とし、最後は水抜きも行う減量方法で48キロ級の五輪メダリストになりました。体に負担が大きい減量をこなしている中で、今回のオンラインイベントに参加してみての感想は?

「減量方法については結構聞かれたりしますが、私の方法は身体の負担が大きいと分かったうえでやっているので、人に勧めることはできないと思っています。今回、栄養士さんから身体の負担が少ないやり方を聞く中で、自分にもアドバイスができることがあるんじゃないかなと思う部分もあった。お話しできる機会をいただけて良かったです」

――減量中の食事メニューや摂取量なども自分で考えています。得意料理、減量中に頼れるメニューは?

「グリルチキンを作る時に野菜を添えると野菜も摂れるし、むね肉をそのままオーブンで焼くだけで結構簡単です。色とりどりにもできるので、減量中は楽しみにしています。飽きないように、鶏を食べたら次の日は豚肉、次の日は牛肉……みたいな感じで回しています。鍋も結構食べるんですけど、味付けとか入れるものを変えたりして、バリエーションを増やしています」

――ジャンクフードを食べることに罪悪感がある一方、年に1~2回食べるガッツリ系のラーメンが大好き。辛い減量のご褒美に、チートデーを設けるのも場合によってはアリだとオンラインイベントで確認できました。

「(ラーメンは)ガッツリ食べる時だったら二郎系だったり、背油チャッチャ系って言うんですか? そういうのを食べに行きます。(チートデーは)ダメって言われるんじゃないかな、大丈夫かな……と思っていたんですけど。減量はストレスがかかってしまうので、何か自分を頑張らせるためのご褒美として。栄養士さんから大丈夫と聞けたので、勧めていこうかなと」

チートデーで感じた「体が落とさないように守るのかな」

チートデーを取り入れることになったきっかけは【写真:松橋晶子】
チートデーを取り入れることになったきっかけは【写真:松橋晶子】

――チートデーを取り入れることになったきっかけはありますか。

「(52キロ級だった)大学生の時、一度だけ48キロ級で試合に出たことがあるんですけど、その時(在籍していた東京学芸大の)射手矢岬監督に『50キロ切れないんです』と相談したら『1回食べてみろ』って言われて。一度は増えるんですけど、その後の減りがよくなった。やっぱり身体がこれ以上落とさないように守るのかなと。毎日はもちろんダメですけど『大丈夫、食べてあげるよ』とちょっと勘違いさせてあげることで、落ちやすくなるのかな」

――減量後の体重はすぐに戻る体質で、仲間からは「スポンジ」と言われるほど。減量を終えた後、まずは温かいスープなどを飲むとのことですが、その後は何を食べますか。

「やっぱりご飯をしっかり食べます。他にパスタだったり、炭水化物は好きなので食べちゃいますね。最初は雑炊とかで食べていくんですけど、その後もう1回ご飯を炊いて、また食べて。周りの人に『まだ食べるんですか?』『よく気持ち悪くならないね』って言われたりはします(笑)。男子の柔道家で私より食べる人はいますけど、女子だといないかもしれません」

――減量にも「ゆっくり減量」「急速減量」の2種類があると学びました。計量のあるアスリートは急速減量に頼ることも多いが、脱水、免疫低下などには注意が必要です。

「自分でも本当に『寿命削っているな』『絶対良くないだろうな』とは分かりながらやっていて。体脂肪率の部分でも(女性は12%以上が望ましいが)『もう減量しないでください』って言われる方になると思う。(1週間に1%の減量を目指した食事戦略を立てる)“ゆっくり減量”のフローチャートを見て、やってみたいなって思いました」

計量に向けた準備を明かした【写真:松橋晶子】
計量に向けた準備を明かした【写真:松橋晶子】

――炭水化物の量は1食当たり蕎麦よりうどんの方が少ないなど、新たな学びもありました。

「そばは血糖値が上がりづらい低GI食品と聞いたことがあるんですけど、1食当たりで比べると炭水化物の量ならうどんの方が少ないというのは初めて知りました。うどんより蕎麦の方がいいだろうって思ってしまっていたんですけど、両方うまく取り入れていいんだと思いました」

――柔道には前日計量と、当日のランダム計量があります。

「自分は試合の日に『落とさなきゃ』っていうのをしたくなくて、前日の夜に食べる量を調整したりとか、お風呂に入って落としてから寝るようにしています。(52キロ級から48キロ級に)階級を変えてから栄養士さんの知識も聞いて、いろいろ試しながらどれが合うか自分の体と相談して見つけてきた感じです」

――生理と減量期が重なることも。つらい点、工夫していることは?

「辛いことは結構あって、腰痛が凄かったり、頭痛、腹痛だったりは絶対。布団から出られないくらいの腹痛があったりすることもあります。むくみもすごいですし、食欲が止まらず甘いものを食べても食べても食べたくなっちゃったりとか。影響は大きかったなと思います。

 減量ができなかったり、やりづらくなったりしていたので、階級を変える前からピルを使い始めていました。時期もずらせるので。大学生くらいの時から腹痛が酷く、炎症とかも起きてしまっていました。家族みんな生理痛が酷かったので、親に相談して婦人科に行って。使った方がいいと言われました」

ストレスのない生活を心掛ける理由「健康生活がメインになっちゃうと意味ない」

ストレスのない生活を重要視している【写真:松橋晶子】
ストレスのない生活を重要視している【写真:松橋晶子】

――競技をする中で、ストレスのない生活を重要視していますね。

「なんだかんだストレスが一番影響するなって思っていて。減量もパフォーマンスも、できるだけストレスのない生活をした方が全部うまく回るなと感じていたので。試合に向けてちゃんとした食事にしようとか、早く寝て、早く終わってきっちり頑張ろうとすると、すごい肌荒れしたりとか、逆に太っていったりして。

『体に悪くないものしか食べていないのに、なんで?』と思ってしまったり……だんだん睡眠の質が落ちたこともあったので、ちゃんとストレスを溜めないように。どこかで美味しいものを食べたり、楽しんだりしてリフレッシュしながらやっていかないと、練習にも身が入らない。目的はやっぱり柔道でしっかりパフォーマンスを出すことなので、健康生活がメインになっちゃうと意味ないなって感じました。そこのバランスをしっかり取っていきたい」

――スイッチの切り替えをうまくしているように見えます。

「この年まで続けてこられたのは、そういう部分があったのかなと。『この日は遊ぶ』『この日は食べる』と決めて、そこまで我慢するとか。今まではどちらも中途半端な感じで、オンとオフのしっかりした切り替えができてなかったけれど、全てにおいて大事だと思いました。(ストレス発散は)友達とご飯行ったりとか、温泉入ったりとか、運動するのも結構発散になったりするので、柔道以外の運動とか、カラオケとか」

――減量中・月経中にお勧めのヘルシースイーツとして、ギリシャヨーグルトを使ったフルーツサンドなどを勧められました。今回のイベントで得た一番の学びは?

「『これは駄目』じゃなくて、ちょっと工夫することで楽しめること。自分も外食する時、ラーメンでこんにゃく麺に変えられるところは変えたりとかしています。でも、まだ全然幅が狭いなって。(フルーツサンドは)確かにギリシャヨーグルトは美味しいですし、大好きなので。食パンは炭水化物が少ないという部分もあって、じゃあ朝ご飯にできるのかなとか。工夫一つで楽しみになるなっていうのを感じました」

角田選手は競技生活で悩みを抱える学生にアドバイスを送った【写真:松橋晶子】
角田選手は競技生活で悩みを抱える学生にアドバイスを送った【写真:松橋晶子】

――自分で情報を取りにいくタイプですか。

「これは結構昔からコーチに言われるんですけど、自分で気になったこと、知識を知ろうとするみたいです。『何でそんなことまで知っているの?』って言われて。『気になって調べ出したらいろいろ出てきました』みたいなやりとりを(笑)。よく分からない豆知識まで知っている感じです。ネットで検索だったりとか、本見たりとか。昔はそうやっていろいろ聞いたり、本とか見たりしたんですけど、もう今は携帯でパッて気になったらすぐ調べられちゃうので。その全てが正しい情報かわからないですけど」

――競技生活で悩みを抱える学生にアドバイスを送るとすれば。

「本当にそれこそ切り替えだと思う。友達と遊ぶときは遊んで、学校生活を楽しむときは楽しんで。練習するときは練習。オンとオフをしっかりして、どっちも楽しんで欲しいなって思います。競技だけじゃなくて、生活自体も。その方が長く続けていけたり、やりがいも感じられるのかなって私自身は思うので。切り替えをうまくしていってほしいなと思います。

 私が自分に今何が必要かを考えるようになったのは大学生くらい。社会人になって、人からやらされるわけじゃなくて、自分自身でも仕事として結果を出さないといけない。そうなった時に、必要なことを自分に取り入れていった大学時代の経験が生きました」

■角田 夏実 / Natsumi Tsunoda

 1992年8月6日生まれ。千葉県出身。小学2年から父親の影響で柔道を始めると、八千代高を経て東京学芸大に進学。大学で寝技の技術に磨きをかけると、2013年の学生体重別選手権で自身初の全国優勝を果たす。了徳寺大学(現・SBC湘南美容クリニック)に進み16年のグランドスラム・東京大会で優勝。19年に52キロ級から48キロ級に階級を変更。21年世界選手権から日本の女子選手として史上3人目となる3連覇を達成。2024年パリ五輪で金メダルを獲得した。

(W-ANS ACADEMY編集部・宮内 宏哉 / Hiroya Miyauchi)

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