「INTERVIEW / COLUMN」記事
ピルを飲んで変わった生理との向き合い方 毎月くることで体の健康を実感、前向きな気持ちになった――陸上・佐藤友佳選手
著者:W-ANS ACADEMY編集部
2024.12.06
月経

「女性アスリートと月経」特集・佐藤友佳選手インタビュー後編
陸上女子やり投げで活躍する佐藤友佳選手(ニコニコのり)。28歳で初めて婦人科を受診するまで、痛みや心身の不調など、月経に関連する様々な症状に悩んできたといいます。「生理の悩みは100人いたら100パターンある。指導者の方にはそれを知っておいてほしい」と言う佐藤さん。婦人科を受診した後の心の変化から、月経に悩む女性、そして指導者に届けたい言葉などを伺います。
◇ ◇ ◇
――佐藤さんは28歳で初めて、国立スポーツ科学センター(JISS)内のクリニックで、婦人科を受診しました。そこで、ピルを試そうと思った理由を教えてください。
「一番は、生理と試合が重なることを避けたかったからです。やり投げ競技は試合開始後、約40分から1時間は試合会場にいなければなりません。少なくとも試合開始20分前にはグラウンドにいるので、最低でも1時間はいるわけです。その間は、スパイクを履き替えてまでトイレに行くのは煩わしいですし、自分の順番が回ってくるまで落ち着かないしで、行きづらいんです。
それから競技の特性上、身体の動きも多いので、ナプキンがずれていないかと不安になってしまう。また、試技の間や待機中に出血があると、気持ち悪かったですし、特に量の多い日は気になりました」
――ウエアにひびくという心配は?
「ありました。やり投げ選手は試合時に、基本、スパッツを履くんですね。ナプキンってモワモワしているので、形が影響して見えてしまうかも、というのも気になりました。
他にも、海外遠征の移動中、トイレに行くタイミングをミスってしまい、一度、洋服にひびいてしまった経験もあります。海外遠征時に大量の生理用品を持っていくのも大変でした。やっぱり日本製のものが安心なので、そこは譲れなくて。そのことで『生理がこないなら楽だな』という気持ちがあり、ピルの使用を選択しました」
――実際、服用を続けてどうでしたか?
「生理と試合の日が重なることがなくなり、出血も少しになったので、ストレスはだいぶ減りました。でも結局、1年間でやめてしまったんです。
というのも、ピルを毎日、同じ時間に飲むのが本当に面倒くさかった!(笑)。飲み忘れたらどうしようとか、ずっと飲み続けなければいけないのかと考えるほうが、私にとっては大きなストレスだったんです。でも、1年間、ピルを使用したことで、生理に対する気持ちが少し変わり、良かったと感じています」
身近な年上の女性に打ち明けるだけでも気が楽になる

――どんな風に変わりましたか?
「ピルを処方する前は、『生理がなくなれば楽なのに』と感じたり、心身の不調を生理のせいにしたりすることもありました。でも、毎月くることで体が健康であることを実感でき、安心や幸せを感じられるようになりました。
むしろ、自分でできることでこまめに対処していこう、と前向きな気持ちになり、生理に対するストレスもだいぶ小さくなりました。また、将来、子供が欲しいと昔から考えていたので、ピルを使うにあたり、JISSのクリニックで妊娠・出産についてのお話を詳しく聞けたことも良かったです」
――服用に際して、将来的な不安があったんですね。
「はい。特にピルに対する不安があったので、服用しても妊娠への影響はないと知って安心しました。何より、JISSの婦人科医の先生から、妊娠・出産の話をしてくれたので良かった。
まだまだ、アスリートの恋愛をタブー視されたり、競技と出産について話しにくかったりもします。出産した選手がどんな風に競技や体と向き合っているのかという話を聞けて、何だかすごく安心しました」
――今は近所にかかりつけ医もいますか?
「はい。自宅近くの病院を調べて、ホームページや口コミを読み、信頼できると感じた先生のクリニックにお世話になっております。私以外のアスリートは担当していませんが、特に問題もありません。定期的に検診を受けるようになりましたし、基礎体温もつけ始めました」
――月経について悩んでいる方たちに伝えたいことをお願いします。
「私はクリニックの先生に一度、悩みを打ち明けたことで、『言葉に出して相談すればいいんだ』とマインドが変わりました。人に言いにくい気持ちは私も経験したので理解できます。でも、1人で抱えず、信頼できる誰かに打ち明けて欲しい。例えば、身近にいる相談できそうな年上の女性などに打ち明けるだけでも、気が楽になると思います。
そして、いつもと違うなとか、もしかして異常なのかなと思うことがあったら、怖がらず、恥ずかしいと思わず、婦人科を受診してほしいです」
指導者の厳しい言葉で、選手が二重に傷つくことも…

――選手として、指導者の方に伝えたいことはありますか?
「生理の悩みは100人いたら100パターンあるぐらい、個々が抱える悩みは異なります。まずはそれを知っておいてほしいです。それと、スポーツの指導者は女性よりも男性のほうが多いと思いますが、私のように男性コーチには言いにくい、きっと理解してもらえないと考えている選手は意外と多いと思います。
だからこそ『悩んでいるのかな?』と感じる選手がいたら、自分と選手の間に立ってくれそうな女性、学校でしたら保健室の先生が女性であれば、その方たちに協力してもらい、悩みを打ち明けやすい環境を作るのも一つの方法かと思います。
あとは、優しくしてほしいです(笑)」
――優しく、ですね(笑)。例えば、どんな風に声かけすると良いなどありますか?
「私の意見ではありますが、イライラしたり落ち込んだりしている様子の選手がいたとします。例えば『今日はそれはできません』とその選手に返された時に、『もういい、やるな!』『出ていけ!』という風に言わないでほしい。その言葉だけで、選手は傷ついてしまうからです。
やっぱり、生理前のイライラで、思ってもいないことを言ってしまうことはあるんですね。私も経験がありますが、言った瞬間、自己嫌悪に陥ってしまうので、指導者の言葉で二重に傷ついてしまいます。もちろん、『もしかして生理でイライラしてるのか?』も言ってはダメです。
そんな時は『そういう日もあるよな』ぐらいの感じで、ただ優しく言葉をかけてほしい。選手はそれだけで、心がちょっと落ち着いたり、『やっぱり先生を信じていこう!』という気持ちになると思います」
■佐藤 友佳 / Yuka Sato
1992年7月21日生まれ、広島県出身。中学時代に陸上を始める。東大阪大敬愛高校時代、7種競技から投てき3種目に切り替え、次第にやり投げ競技に絞る。高校時代、2009年にイタリアで行われた世界ユース陸上競技選手権大会に出場。2011年アジア陸上競技選手権大会で銅メダルを獲得する。東大阪大学卒業後、小学校の職員として働きながら競技を続けていたが、2018年からニコニコのりに所属。現在に至る。2019年、世界陸上競技選手権大会に出場。2020年の日本陸上競技選手権大会で自身初の優勝を飾る。やり投げ自己ベストは62メートル88(2019年日本陸上競技選手権大会)。
(W-ANS ACADEMY編集部)
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