「INTERVIEW / COLUMN」記事
無理な食事制限やオーバートレーニングに注意! 「スポーツにおける相対的エネルギー不足」って何?
著者:W-ANS ACADEMY編集部
2024.06.24
コンディショニング
体重管理
貧血
食事
日本体育大学・須永美歌子教授が解説する「スポーツにおける相対的エネルギー不足」(前編)
皆さんは「スポーツにおける相対的エネルギー不足」という言葉を聞いたことはありますか? これは無理な食事制限やオーバートレーニングにより生じるエネルギー不足のこと。「体重は少ないほうが記録が伸びる」「見た目にもよくなる」という理由で、食事量を極端に減らし、休みなく長時間の練習やトレーニングを行うと、結局は運動のパフォーマンスが落ちる要因になります。前編ではエネルギー不足による障害と今の自分の体の状態を見るチェックポイントを、日本体育大学の須永美歌子教授に解説していただきます。
「何となく疲れが残っている感じがして、思うように動けない」
そんな日が続く場合、もしかしたら「エネルギー不足」になっているかもしれません。一度、食事やトレーニングの内容を見直す必要があります。
ここで言う「エネルギー不足」は、専門的な言葉で「利用可能エネルギー不足」(※エネルギー摂取量から運動によるエネルギー消費量を引いて、除脂肪体重で除した値が30kcal/kg/day未満の状態)と言います。スポーツをする人によく見られ、食べる量が不十分のため、生活や運動、そしてカラダの成長などに必要なエネルギーが足りない状態のことです。
そして、『利用可能エネルギー不足』が続くと、「疲れやすい」「集中力が落ちる」など、「お腹が空いた」時によくある症状が出るだけにとどまりません。実は消化機能や睡眠、認知機能の障害やメンタルヘルスの問題など、心身に様々な健康障害が起こり、運動パフォーマンスが低下したり、怪我につながったりします。この一連の現象を「スポーツにおける相対的エネルギー不足(REDs)」と表現します。
例えば、胃腸の調子が悪ければ食べたものをうまく消化・吸収できず、運動するエネルギーを生み出したり筋肉を作ったりできません。よく眠れないと、疲労が溜まり、体力や集中力が低下。筋肉や肌を作る機能も衰えます。そして、認知機能が低下すると判断力や思考力が落ち、ミスが増える要因に……。
以上のように「利用可能エネルギー不足」の状態が続くと、一生懸命、練習やトレーニングを続けても、持久性パフォーマンスや筋力が低下する、記録が伸びない、体作りが上手くいかないなど、思うようにいかないことが次々と起こってしまうのです。
エネルギー不足の状態でサプリメントを摂っても効果なし
さらに女性の場合、「利用可能エネルギー不足」によって、貧血を引き起こす恐れがあります。
貧血は実は食事量と関係しています。というのも、まず血液を作るためには材料となるエネルギーや栄養素が必要だからです。
「それなら鉄のサプリメントを摂ればいいでしょ?」と思われるかもしれませんが、実はエネルギー不足の状態で摂っても効果はありません。というのも、糖質不足だと鉄の吸収が悪くなるため。サプリメントを摂るにしても、やはり食事をしっかり食べることが第一です。
たくさん運動しているのに食べていない、または食べていてもオーバートレーニングが続くと、健康を害します。強くなる、うまくなるためには、頑張ることも大事。ただし、頑張るための「ガソリン」である食事はしっかり食べること。眠っているのに疲れが取れないは、自主練の量を控える、監督やコーチに相談するなどの対策も必要です。
「頑張っている仲間に申し訳ない」「指導者に言いにくい」と感じるかもしれませんが、無理をしても結局はパフォーマンス低下につながります。指導者には「頑張りたい気持ちはあるけど、カラダがついていかない」と伝えて、対策を考えてもらいましょう。同時に、選手にも指導者にもしっかり休養をとることの重要性を理解してほしいです。
さて、今自分がエネルギー不足かどうかを判断するには、食事のカロリー計算だけでは難しいです。まずは、カラダに表れる変化を見ることが大切です。
最後に簡単なチェックリストを用意しました。一つでも当てはまったら、エネルギーが不足している恐れがあるので、食事や練習量を見直してみてください。
また、女性の場合、エネルギー不足によって無月経や骨粗しょう症といった深刻な問題を引き起こす恐れがあります。これについては後編でお話ししましょう。
【CHECK!! あなたはエネルギー不足?】
□ 睡眠をとっているが疲れがなかなかとれない
□ 筋力トレーニングをしているのに筋肉量が増えない
□ 疲労骨折をした、または貧血と診断されたことがある
□ 毎月、来ていた月経が来ない
(W-ANS ACADEMY編集部)
Sunaga Mikako
須永 美歌子
日本体育大学教授
日本体育大学教授、博士(医学)。日本オリンピック委員会強化スタッフ(医・科学スタッフ)、日本陸上競技連盟科学委員、日本体力医学会理事、日本トレーニング科学会会長。運動時生理反応の男女差や月経周期の影響を考慮し、女性のための効率的なコンディショニング法やトレーニングプログラムの開発を目指し研究に取り組む。大学・大学院で教鞭を執るほか、専門の運動生理学、トレーニング科学の見地から、女性トップアスリートやコーチを指導。著書に『女性アスリートの教科書』(主婦の友社)。
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