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「練習あるし、仕事あるし」で後回しにされる生理 Vリーグ・東レで実践されていた月経の決まり事――バレーボール・迫田さおり「女性アスリートと月経」

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「練習あるし、仕事あるし」で後回しにされる生理 Vリーグ・東レで実践されていた月経の決まり事――バレーボール・迫田さおり「女性アスリートと月経」

著者:長島 恭子

2024.03.06

月経

迫田さおりさんが語った、Vリーグ・東レ時代のチームにあった月経の決まり事とは【写真:片岡祥】
迫田さおりさんが語った、Vリーグ・東レ時代のチームにあった月経の決まり事とは【写真:片岡祥】

「THE ANSWER的 国際女性ウィーク」5日目 女性アスリートと月経/迫田さおりインタビュー後編

「W-ANS ACADEMY」の姉妹サイト「THE ANSWER」は3月8日の国際女性デーに合わせ、さまざまな女性アスリートとスポーツの課題にスポットを当てた「THE ANSWER的 国際女性ウィーク」を今年も展開。「“つながり”がつくる、私たちのニューノーマル」をテーマに1日から8日までアスリートがインタビューに登場します。さまざまな体験をしてきたアスリートといま悩みや課題を抱えている読者をつなぎ、未来に向けたメッセージを届ける内容を「W-ANS ACADEMY」でも掲載します。5日目はロンドン五輪バレーボール銅メダリストの迫田さおりさんが登場。テーマは「女性アスリートと月経」。後編では、Vリーグ・東レアローズ時代にチームで実践されていた決まり事を明かし、次世代へのアドバイスも送りました。(取材・文=長島 恭子)

 ◇ ◇ ◇

 2017年、東レアローズ、そして日本代表で活躍した迫田さおりさんは、29歳で競技引退。現在は地元・鹿児島県を拠点に、メディアやイベント等を通じ、バレーボールやスポーツの魅力を発信している。

 迫田さんは現役中、立ち上がれないほどの強い生理痛に苦しむこともあったが、今は痛みもだいぶ穏やかになったという。また、年に一度、必ず婦人科の検査を受診。年齢による変化も重なり、自己管理の大切さをより感じるようになった。

「引退後、環境がガラリと変わったせいか、生理の周期や量などが変わりました。そのとき、『うわっ、今までと違う』とちょっと不安になり、検査は定期的に受けるようにしています。

 選手時代は毎日、体を動かし、食事もしっかり食べ、規則正しい生活リズムで過ごしていましたが、今は違います。健康上、ちょっと不安なことがあっても、すぐに聞けるトレーナーさんもいないですしね」

 年を重ねたからこそ、気づいたことがたくさんある。迫田さんは、若い時ほど生理のことを深く考えなかったと振り返る。

「まず、生理はみんなあるのが当然、そして、痛みがあるのも当然だと考えていました。また、生理前にイライラしたり、甘いものを無性に食べたくなったりしても、生理を言い訳にしたくなかった。生理なんかに負けない! と思っていましたね。ただ、そんな風に思えたのは、深刻な問題に至らなかったからかもしれません」

 現役時代、チームメイト間の日常会話のなかで、生理に関する情報交換もしていた。どんな痛みや不調があるのか、どう対処するのか。その時、多くのバレーボール選手たちは、ひどい生理痛を抱えていることを知った。

「体の痛みはもちろん、精神的にかなり大変な思いをしている選手や、ピルの副作用に苦しむ人もいました。なかには、体は生理中の状態なのに経血が出ないという方もいました。学生時代は生理って面倒くさいと思っていましたが、いろいろな話を聞くうちに、生理がちゃんと来るのは、ありがたいことだと思うようになりましたね」

東レで実践されていた決まり事「全員が生理の日を記録に残す」

生理の記録は「体との会話や、気づきに繋がります」と迫田さん【写真:片岡祥】
生理の記録は「体との会話や、気づきに繋がります」と迫田さん【写真:片岡祥】

 迫田さんが抱えていた唯一の生理の悩みが、痛みだった。月によって強弱の波はあるものの、重症化しないよう、鎮痛剤は手放せなかった。

「私の場合、環境の変化による影響を受けやすかったと思います。“ストレス”という言い方は好きではないのですが、合宿、遠征、大会など、環境が変化し、プレッシャーや不安が多いときは、生理痛が重くなる。そして痛みが起きてから薬を飲んでも、まったく効かないことがわかりました。

 大事な大会にピークに持っていくときなども、長期間、気が張っている状態が長く続きます。代表活動が終わった後やオフシーズンなど、緊張のスイッチが切れると痛みが増しましたね」

 生理中のコンディションをコントロールするうえで役立ったのが、記録だ。東レでは体調管理のため、全員が生理の日を記録に残す決まりがあった。小さな習慣だが記録を残すことによって、自分の体を知ることが出来たという。

「記録することで、どんな1か月だったか振り返れます。すると、生理に関する『何で?』という疑問の答え合わせが出来るんです。

 大会や合宿があった、勝った、負けた、どんな練習内容だったか。私の場合、振り返るとメンタルの状態と生理の痛みの波がピタリと合った。苦しい状態が続いたから痛みが強かったんだなとか、リラックスして過ごせたから今月は順調だよねとか、記録が教えてくれました。

 記録は生理と自分とのコミュニケーションツールというか。体との会話や、気づきに繋がります」

 痛みと向き合ってきた経験から、生理痛に悩む女性にアドバイスが欲しいと伝えると、「痛みは当たり前ではないと思うこと。ガマンをしすぎないこと」と挙げた。

「私たちはどうしても、練習があるし、仕事があるしと、生理の問題を後回しにしがちです。また、生理の痛みは数日で治まるし、毎月のことだから、どうしても終わると忘れてしまう。

 でも、生理痛や生理不順は体のSOS。恐らく、突然、体が悲鳴を上げたのではなく、予兆があります。だから、出来るだけ快適に過ごすには、早い段階で体のSOSに気づけることが一番だと思います」

生理に限らず、悩みを話せる人の大切さ「誰かを支える、誰かに支えられることが大事」

迫田さんは生理に限らず、悩みを話せる人の大切さを語る【写真:片岡祥】
迫田さんは生理に限らず、悩みを話せる人の大切さを語る【写真:片岡祥】

 そのためには、生理中以外も、モヤモヤした気持ちを溜め込まないこと。その日、その時に思い付いたことでいいので、少しでもモヤモヤした気持ちを払ってほしい、と迫田さん。

「寝たいから寝るでもいいし、ご飯をいっぱい食べるでもいい。推し活や女子会で発散するのもいいし、逆に一人で音楽を聞いたり、部屋を暗くしてボーっとしたりもアリです。あ、空を見よう、というのもいいですよね。要するに、自分に正直になるって感じです。

 それを、生理中にまとめてバーンとするのではなく、1日5分でもいいから、日常生活でちょこちょこと続ける。その積み重ねで、1年後、2年後、10年後、20年後、心も体も、いい状態に保てるんじゃないかな」

 そして、一人で戦わないこと。家族でも友達でもいい。生理の問題に限らず、悩みを話せる人に話すことの大切さにも触れた。

「人には『病院に行きなよ』と言う割に、自分のこととなると、面倒くさい気持ちが勝ち、足が重くなりますよね。だからこそ、『病院に行きなよ』と言ってくれる人がいることに意味があるんです。

 身近に『病院に行きなよ』と言ってくれる人、何でも相談できる人がいるといないとでは、心や体の状態は全然、違ってくる。誰かを支える、誰かに支えられることが、大事じゃないかな」

(「THE ANSWER的 国際女性ウィーク」6日目はフィンスイミング・松田志保が登場)

【バレーボール・迫田さおりさんの「人生で救われた、私のつながり」】

「私は1人では何もできない人間なので、人との繋がりで救われたことしかありません。欲がなく、ネガティブ思考の私を『あなたはもっとできるよ』と導いてくれたのは、ファンやスタッフ、そしてチームメイトと、バレーボールで生まれた繋がりです。人との繋がりがなければ、バレーボール選手としての可能性や人としての力などを知らずに、この世からいなくなっていたと思います。私の知らない私を知ることができたのも、今こうして、皆さんにお話をさせていただけるのも、人との繋がりに恵まれたからこそだと思います」

 ※「THE ANSWER」では今回の企画に協力いただいた皆さんに「あなたが人生で救われたつながり」を聞き、発信しています。

■迫田 さおり / Saori Sakoda

 1987年12月18日生まれ。鹿児島・鹿児島市出身。小学3年でバレーボールを始め、鹿児島西高(現・明桜館高)卒業後、2006年にVリーグの東レアローズに入団。 2010年4月から日本代表に。2012年ロンドン五輪では、28年ぶりのメダル獲得に貢献。2016年リオデジャネイロ五輪にも出場し、5位入賞。2017年5月30日に東レアローズを退団し、現役引退。現在はスポーツ文化人として、バレーボール主要大会の解説を始め、テレビ、トークショー、バレーボールクリニックなど、さまざまな活動を行う。

(長島 恭子 / Kyoko Nagashima)

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