重い生理痛でひっそりベンチ外に 記者が質問も…発表は「体調不良」 後悔した痛み止めのタイミング――バレーボール・迫田さおり「女性アスリートと月経」
「INTERVIEW / COLUMN」記事
重い生理痛でひっそりベンチ外に 記者が質問も…発表は「体調不良」 後悔した痛み止めのタイミング――バレーボール・迫田さおり「女性アスリートと月経」
著者:長島 恭子
2024.03.06
月経
「THE ANSWER的 国際女性ウィーク」5日目 女性アスリートと月経/迫田さおりインタビュー前編
「W-ANS ACADEMY」の姉妹サイト「THE ANSWER」は3月8日の国際女性デーに合わせ、さまざまな女性アスリートとスポーツの課題にスポットを当てた「THE ANSWER的 国際女性ウィーク」を今年も展開。「“つながり”がつくる、私たちのニューノーマル」をテーマに1日から8日までアスリートがインタビューに登場します。さまざまな体験をしてきたアスリートといま悩みや課題を抱えている読者をつなぎ、未来に向けたメッセージを届ける内容を「W-ANS ACADEMY」でも掲載します。5日目はロンドン五輪バレーボール銅メダリストの迫田さおりさんが登場します。テーマは「女性アスリートと月経」。前編では、現役時代に2度、重い生理痛に襲われた経験を吐露。公式戦を欠場した過去を打ち明けました。(取材・文=長島 恭子)
◇ ◇ ◇
生理中に起こる、腹痛や頭痛、腰痛などの不快な症状、生理痛(月経痛)。なかでも、日常に支障をきたすほどの重い症状は「月経困難症」という疾患になり、治療の対象になる。
しかし多くの女性は、重い生理痛が「病気」との感覚は薄い。特に女性アスリートのなかには、「痛みを訴えることは弱音を吐くのと同じ」と考える人もいて、「自分の痛みはきっと大したことではない」「生理とはこういうもの」と、重い症状があっても、ひたすら我慢する傾向があるという。
「昔は正直、自分の体のことなのに、月経について、まったくわかっていなかった」。そう話すのは、元女子バレーボール日本代表の迫田さおりさん。2012年ロンドン五輪で、28年ぶりにメダルを日本にもたらした“火の鳥NIPPON”の一人だ。
「幸い私は、現役時代も生理の周期も順調で大きなトラブルもありませんでした。唯一、悩んだのは生理痛ぐらいです」
迫田さんが初潮を迎えたのは中学2年生のとき。小学高学年頃から生理が始まる友人が増えるなか、「面倒くさそうだからあんまり来てほしくないな」と思っていた。
「ある日、下着についたおりものに気づき、『な、なんだこれは!? 何かやばくない!?』と焦り、姉と母に報告しました。二人から『あ、もうすぐ生理が来るんじゃない?』と冷静に言われ、あ、なるほど、と。それが、生理にまつわる最初の記憶です」
生理は月1回、1週間、規則的に起きた。生理痛はあるものの、生理不順に悩むことも、スポーツをする上で邪魔に感じることもなかった。
「高校でもオーバートレーニングの心配もなく、ご飯もふつうに食べていた。強豪校ではなかったこともあり、生理のトラブルの引き金になるような、厳しい練習や減量もない環境でした。ですから、生理痛ってこんなにひどい状態になるのかと知るのは、実業団に入ってからです」
競技生活で2回あった重い生理痛
迫田さんは競技生活で2回、起き上がれなくなるほどの重い生理痛を経験している。1回目は東レアローズ入団後、初めて迎えたオフシーズンだった。
高校卒業後、地元・鹿児島県を離れ、実業団に入団した迫田にとって、1年目は激動のシーズンだった。慣れない寮生活に、高校時代とは比べものにならない厳しい練習。ボールを触ることさえできない日々が続き、入団したばかりの頃はホームシックで毎晩、泣いた。
そしてシーズンが終了し、久々に帰省する。たまたま生理が重なると、突然、「経験したことのない、爆発的な痛みが起きた」。
「痛みで頭が働かず、クラクラした。何だ、この痛みは。私の体はどうかなってしまうのか、とすごく怖かった。薬を飲んでも痛みが治まらず、この日は気絶するように眠りました」
この痛みはずっと続くのかと不安になり、翌日、母親と一緒に婦人科のクリニックに行った。「生理痛だね」。検査の後、医師からサラッとそう告げられた。
「先生、助けてください、お願いします! という気持ちで病院に行きました。ところが、『生理痛』の一言で終わり。え、ソレだけ!? と拍子抜けしました(笑)。痛みが強すぎて、怖くて、生理痛だと思わなかったんです」
とはいえ、生理痛であることに安心もした。3日目以降は痛みも消え、同じような痛みも再発せず、そのうち、思い出すこともなくなった。
「その時は立ち上がれないほどの痛みだったのに。生理痛って、忘れちゃうんですよね」
2度目は、2010年。初めて代表に招集され、約半年の強化期間、世界バレー日本大会に初出場した年だった。急激な環境の変化や目まぐるしい日々を何とか乗り越え、久々に所属チームに戻って出場した天皇・皇后杯の大会期間中の出来事だ。
「試合当日、少し痛み止めを飲むのが遅れたんです。すると、実家で倒れたとき以来の、激しい痛みが起きてしまった」
公式戦で穴を開けるわけにはいかない。迫田さんは痛みを押してチームメイトの待つバスに乗り込もうとした。
「バスまで行ったとき、『あ、無理だ』と思いました。トレーナーさんが私の顔色をみてすぐ体調不良に気付いて下さり、『チームには伝えておくから休んで』と。いつもより強い薬をもらってホテルに戻り、ベッドで寝ていました」
チームからの発表は体調不良「もう絶対に同じことが起こらないように」
「どうして迫田はベンチ入りしていないのか?」。記者からは当然、質問が飛んだが、チームからは体調不良と発表された。
病院に行くことも考えたが、1日で痛みは治まった。翌日からはいつも通り、痛み止めを飲んで練習に復帰した。
「試合で穴を開けてしまい、またこんな感じになってしまうのかもしれないと、次の月、生理が来るのがすごく怖かったですね。
いろんな人に迷惑をかけてしまうので、もう絶対に同じことが起こらないようにしないといけない。痛み止めは、痛くなってから飲むのでは効かないと医師から聞き、現役の間は薬を飲むタイミングだけは間違わないよう、徹底していました」
長い現役生活のなかで、わずか2日間の出来事。しかし、1試合1試合に結果を求められるアスリートにとって、競技人生を左右する最悪のタイミングに重なる恐れもある。
迫田さんも出場した2012年、ロンドン五輪に出場後、日本人の女性アスリート132名に対してアンケートが実施された(※1)。「女性特有の問題で競技に影響を及ぼしたことは何か?」という質問に対する回答で最も多かったのは、「月経による体調不良」。2番目が「月経痛」だった。
当時、女性トップアスリートの婦人科の受診率はわずか4%(※2)。迫田さんに限らず、恐らく多くの女性アスリートが、自己流の対策や精神力で痛みを乗り越えながら、競技を続けていたと考えられる。
(後編に続く)
※1、2 公益財団法人 日本オリンピック委員会 女性スポーツ専門部会 ロンドンオリンピック出場女性アスリートによる調査報告
■迫田 さおり / Saori Sakoda
1987年12月18日生まれ。鹿児島県鹿児島市出身。小学3年でバレーボールを始め、鹿児島西高(現・明桜館高)卒業後、2006年にVリーグの東レアローズに入団。 2010年4月から日本代表に。2012年ロンドン五輪では、28年ぶりのメダル獲得に貢献。2016年リオデジャネイロ五輪にも出場し、5位入賞。2017年5月30日に東レアローズを退団し、現役引退。現在はスポーツ文化人として、バレーボール主要大会の解説を始め、テレビ、トークショー、バレーボールクリニックなど、さまざまな活動を行う。
(長島 恭子 / Kyoko Nagashima)
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