アイドル似と取り上げられ、DMで無数の誹謗中傷 SNSの投稿がニュースになる時代の選手のあり方――岩渕真奈×登坂絵莉「女性アスリートとメディア」
「INTERVIEW / COLUMN」記事
アイドル似と取り上げられ、DMで無数の誹謗中傷 SNSの投稿がニュースになる時代の選手のあり方――岩渕真奈×登坂絵莉「女性アスリートとメディア」
著者:長島 恭子
2024.03.04
コンディショニング
報道

「THE ANSWER的 国際女性ウィーク」3日目 岩渕真奈×登坂絵莉 対談後編「女性アスリートとメディア」
「W-ANS ACADEMY」の姉妹サイト「THE ANSWER」は3月8日の国際女性デーに合わせ、さまざまな女性アスリートとスポーツの課題にスポットを当てた「THE ANSWER的 国際女性ウィーク」を今年も展開。「“つながり”がつくる、私たちのニューノーマル」をテーマに1日から8日までアスリートがインタビューに登場します。さまざまな体験をしてきたアスリートといま悩みや課題を抱えている読者をつなぎ、未来に向けたメッセージを届ける内容を「W-ANS ACADEMY」でも掲載します。
3日目は、プライベートでも仲が良いというサッカーの元日本代表FW岩渕真奈さんとレスリングのリオデジャネイロ五輪女子48キロ級金メダリストの登坂絵莉さんが対談。後編は「女性アスリートとメディア」がテーマ。ともに競技を代表する選手として取材される機会が多かったが、その過程では容姿を切り取られたり、SNSの発信をニュースにされたりという経験もあったそう。アスリートとしての本音とは――。(聞き手=長島 恭子)
◇ ◇ ◇
――二人は現役時代、多くのメディアに注目されるなか、その内容や反響の受け止めに難しさを感じることはありましたか?
登坂「私は、性格はネガティブですが(笑)、競技においては結構、ポジティブに捉えるので、基本ありません。元々、注目されない弱い選手だったから、徐々に注目されるようになって励みになったし、『私が取り上げられることで、もっと多くの人にレスリングを見て欲しい!』という気持ちの方が強かった。だから、東京五輪の予選で負けたときも、取材を受けたくないという気持ちにはならなかったな。試合に負けたときも、等身大の自分を見て欲しかった」
岩渕「自分は注目されるのが嬉しい反面、実力が伴っていない自覚があったので、嫌な気持ちもありました。ワールドカップ(2011年ドイツ大会)で優勝した後、19歳で海外のチームに移籍したのも、その嫌な気持ちが少なからず影響しています」
登坂「そうだったの?」
岩渕「うん。絵莉が勝ち取った世界一という結果は間違いない頂点。だけど、チームスポーツではちょっと違って、世界一のチームのメンバーであっても、私よりもうまい選手は山ほどいる。だから『若い』と注目されたのはすごく嫌だったし、『可愛い』と言われることすら、嫌だった時期があった。私自身は等身大でいたんだけどね」
登坂「きっと、個人競技かチーム競技かでも違うし、すごく若い時から注目されるがゆえの悩みだよね。強くないと注目されない立場だった私と、代表チームに最年少メンバーとして入り、偉大な先輩たちと一緒にプレーをしていた真奈ちゃんでは、多分、まったく違う世界だと思う」
岩渕「そうだね。自分は実力と結果が伴ってきたときに初めて、『可愛い』という表現を応援の言葉だと受け入れるようになった。でもそれは、結構、大人になってからのこと」
メディアに容姿を取り上げられ、SNSの投稿をニュースにされる経験も

――それはいつ頃でしょうか?
岩渕「SNSで自分が発信するようになってからだと思います。インスタグラムのフォロワーは、基本、自分のことに興味のある人。彼らからもらう『今日の試合よかったよ』『可愛い!』という言葉に、ポジティブな影響を受けて、頑張ろうって思えるようになったと思う。ただ、注目されることはいい意味でもプレッシャーになる。サッカーに集中しよう、という気持ちを強くしてくれたのも事実」
登坂「そこは私も一緒。見られないより見られているほうが、自分を律することが出来る。やっぱり目標に向かう姿を見て欲しかったし、誰よりも練習をするから強いんだ、と思われる選手でなければという気持ちだった。競技に取り組むモチベーションは、間違いなく高くなったと思う」
岩渕「私に興味を持つきっかけが、サッカーであろうと外見であろうと、自分はサッカー選手。サッカーを一番に考えて、サッカーで返そうということは、ずっと大切にしていたかな」
登坂「私も『ツヨカワアスリート』とか、あるアイドルの方に似ていると言われたとき、SNSのダイレクトメッセージで『似てねえよ、ブス!』とか、ものすごい数のメッセージが届いた。その時に、私を形容する言葉と、その人が持っているイメージとの間にギャップが生まれると、選手は攻撃を浴びるんだなと感じた」
岩渕「それは、本当にある話だよね。今って、選手のSNSの投稿がニュースになる時代じゃない? 例えば誰かと食事に行ったことを投稿すると、ニュースサイトのコメント欄に『サッカーでは話題になんないじゃん』とかよく書き込まれた。自分発信の情報でも、拡散されるとバッシングされることはあるし、そういう反応がいやならSNSをやめればいいと思う。逆に、競技に関係なくても注目されることで、自分の競技のためになると本人が思えるなら投稿すればいいし」
登坂「そうだね。実際、『可愛い』と取り上げられた結果、競技や選手を知ってもらえたケースはたくさんあると思う。そういう意味では、選手が自分の外見を磨くことも、私は競技にとっていいと思うよ」
岩渕「自分たちは、メディアに取り上げられることで、たまたまモチベーションになる側の人間だった、というだけ。中には違う人もいて当然。前半のムダ毛の話もそうだけど、SNSとの距離の取り方も、それぞれの考え、思いに従って、何でも決めればいいと思うよ」
登坂「今は結婚して出産して復帰する選手もいるし、女性アスリートもいろんな選択が出来るようになったと思う。とはいえ、現役でいられる期間は決まっている。限られた時間だからこそ、環境も、生き方も、メイクも、幅広い選択肢のなかで、やりたいことをやり切れるスポーツ界になってほしい」
岩渕「そうだね。短い現役生活、アスリートは本当にやりたいようにやるべき。『女性が輝く社会』って言葉、性別で分けている感じがしてあまり好きではないけれど、スポーツにも女性だから出せる美しさって絶対ある。だから、勝負でも容姿でも、何でもいいから、キラキラ輝く選手が増えてほしい。そして、『女子アスリートってカッコいいな』という言葉がいろんなところから聞こえるようになり、スポーツの世界を目指す子がたくさん続いてくれたら嬉しいな」
アスリートは「現役時代の自分が自分史上、一番カッコいい」

登坂「現役選手って、かっこいいもんね」
岩渕「うん。ホント、引退してそう感じるようになった。頑張っている人って、めちゃめちゃカッコいい。自分もそこにいたんだ、頑張っていたなと思う」
登坂「私も現役時代の自分が自分史上、一番カッコいいと思うもん。今見ても、Tシャツ・短パンの練習着姿の自分が一番好き」
岩渕「多分、現役生活以上に熱中できることは、今後ないよね。もう1回やりたいかと言われたら、辛すぎて全然やりたくないけれど(笑)」
登坂「スポーツはハッキリ結果が出るのがいいよね。勝ち負けがすべてではないけれど、目標を定め、勝ち行くなか、いい形で勝てれば正解、負ければそれまでのアプローチがダメだったとわかる。すると、次の目標も定めやすい」
岩渕「絵莉は真面目だね。自分は引退するまで、ただサッカーが好きでやっていただけの人間だから。でも、自分のMAXを出せなくなって、やめちゃった」
登坂「潔いな。そうだよね、真奈は本当にサッカーが好きなんだなって、一緒にいていつも思っていた」
岩渕「そう?」
登坂「うん。いつも言っていたよ。私はサッカーが好きだからって!」
(「THE ANSWER的 国際女性ウィーク」4日目はゴルフ・有村智恵が登場)
【サッカー・岩渕真奈さんとレスリング・登坂絵莉さんの「人生で救われた、私のつながり」】
「私の人生の大半は、スポーツを通した様々な出会いで占められています。先日も2011年のワールドカップ優勝メンバーと集まる機会がありましたが、12年たっても、当時のことを思い出し、盛り上がれるような繋がりは、スポーツだからこそ得られたものだと感じます。同じ経験を共有してきたチームメート、チームスタッフ、そして応援してくれるたくさんの人たちなど、現役生活で得た人たちとの繋がりは、生涯、消えません。人間は一人では生きられない。人との繋がりは、私がサッカーで得られた財産です」(岩渕さん)
「私はリオ五輪で金メダルを獲った後、ケガをして手術をして、一気に勝てなくなりました。天国から地獄へと落ちたとき、『一緒に頑張ろう』と言ってくれた仲間たち、そして、SNSから心配や励ましの言葉を寄せてくれたたくさんの方がいたから、私は頑張ることができました。今回対談した岩渕真奈さんもリハビリ中に出会った友人。彼女のように、世界の様々な文化に触れてきた方の話は、勉強になることばかりです。引退後も私を成長させてくれる人たち、そしてこの先も長く人生に関わっているたくさんの友人に出会え、レスリングをやっていて本当によかったと感じています」(登坂さん)
※「THE ANSWER」では今回の企画に協力いただいた皆さんに「あなたが人生で救われたつながり」を聞き、発信しています。
■岩渕 真奈 / Mana Iwabuchi
1993年3月18日生まれ。東京都出身。2007年、14歳で日テレ・ベレーザ(現日テレ・東京ヴェルディベレーザ)の一員として、当時の国内トップリーグ、なでしこリーグに初出場。16歳でA代表デビューを飾り、11年の女子ワールドカップではチーム最年少の18歳で優勝に貢献した。2012年11月、ドイツ・女子ブンデスリーガのTSG1899ホッフェンハイムへ移籍。その後、FCバイエルン・ミュンヘン(ドイツ)―INAC神戸レオネッサ(日本)―アストン・ヴィラLFC(イングランド)を経て、2021年5月からイングランドのFA女子スーパーリーグのアーセナル・ウィメンFC、トッテナム・ホットスパーFCウィメンでプレー。2023年9月、現役引退を発表した。日本代表として女子ワールドカップは2011年(優勝)、2015年、2019年大会、五輪は2012年ロンドン大会、2021年東京大会に出場。
■登坂 絵莉 / Eri Tosaka
1993年8月30日生まれ。富山県出身。至学館大学大学院健康科学健康科修士課程修了。小学3年生の時、国体で優勝経験のある父の勧めでレスリングを始める。至学館大学進学後、2012年~15年に全日本選手権4連覇を達成。2013年~15年に世界選手権3連覇の戦績を残す。2016年、至学館大学大学院に進学。同時に、東新住建に入社し女子レスリング部に所属する。リオデジャネイロ五輪では決勝でロンドン五輪銀メダリストのマリヤ・スタドニク(アゼルバイジャン)と対戦。試合時間残り13秒で片足タックルを決めて3-2と逆転。金メダルに輝いた。プライベートでは2020年に結婚、2021年に男児を出産し1児の母に。2022年に現役を引退。現在、メディア出演、イベント出演、講演活動などに取り組み、レスリングの普及や引退後のアスリートのセカンドキャリアの選択肢を広げるべく活動する。
(長島 恭子 / Kyoko Nagashima)
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