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将来は子どもを産む体でありたい 基礎体温を測り、あかんことだと気づいた「生理の考え方」――体操・杉原愛子選手

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将来は子どもを産む体でありたい 基礎体温を測り、あかんことだと気づいた「生理の考え方」――体操・杉原愛子選手

著者:W-ANS ACADEMY編集部

2024.01.26

コンディショニング

月経

インタビューに答えた杉原愛子選手【写真:松橋晶子】
インタビューに答えた杉原愛子選手【写真:松橋晶子】

基礎体温を測ろう! インタビュー

――杉原選手は毎朝、基礎体温を測っていると伺いました。いつから、何をきっかけに始めましたか?

「約4年前、生理不順になったことがきっかけです。

 当時の私は2週間ごとに生理がくるようになり、貧血の症状が現れるようになったんです。疲れやすい、集中力が低下する、筋反応も鈍くなるなど、競技にも影響しましたし、体調の悪い時期と大事な試合がぶつかることが何度もあったんですね。『これは病院に行かないとあかんな』と思い、コーチやトレーナー、家族とも相談して、婦人科の受診を決めました」

――婦人科にかかったのは、初めてでしたか?

「初めてです。診察を考えた頃はちょうど東京五輪前。東京のNTC(ナショナルトレーニングセンター)を練習拠点にしていたタイミングだったので、NTC内の婦人科で診てもらいました。他のアスリートも診ているクリニックだったので、緊張することもなく、安心して診察を受けられました」

――そこで「基礎体温を測りましょう」と言われたんですね。

「そうです。生理不順だったので、基礎体温を測ることで、ホルモンバランスの動きや生理の日を予測できるよ、と婦人科医の方にすすめられました。

 でも、長く記録をつけていくうちに、生理周期とコンディションが関係していると気づき、私自身、生理に対する考え方が変わりましたね」

――競技とのつながりが明確になったことで、興味が湧いた?

「そうですね。選手をやっているとどうしても『生理が来ないほうが楽』と思ってしまうんですね。でも、生理がない=体に異常がある、というサイン。つまり、万全のコンディションとはいえないと思うんです。

 それに、体操人生よりも終わった後の人生の方が長いし、将来的にはやっぱり子どもを産む体でありたいなって考えるようになって。『生理は来ないほうがいい』というのはあかんことだと気づきました」

生理周期とコンディションは繋がっている

基礎体温を測ることは競技にプラスになったと話す【写真:松橋晶子】
基礎体温を測ることは競技にプラスになったと話す【写真:松橋晶子】

――基礎体温を測る習慣がついてよかったと感じることは?

「やっぱり、生理周期とコンディションは繋がっていると知ったことです。

 基礎体温を測っていると、次の生理がくるまでの1か月の間に、低温期と高温期があるとわかります。高温期に入った2週間後に生理が来ますが、私はちょうど生理前にあたるこの時期、体が重だるく感じるし、筋反応がすごく悪いんです。そのときに、無理な練習を続けてしまい、体を痛めたこともあります。

 基礎体温を記録していると調子の悪い日が生理周期のいつにくるかに気づける。それはケガのリスクを回避することにつながるんです」

――それを知ったことで、競技にプラスになりましたか?

「はい。調子が落ちる期間は無理をしないよう、練習量や内容をしっかり調整できるようになったので、すごくよかったです。

 昔は、単純に『今日は調子が悪いから練習がうまくできないんだ』と思ったし、ケガの原因は技術不足にある、と紐づけていました。負けず嫌いだから、調子が悪いときほど『出来るまでやりたい!』と練習をやりすぎていたんですね。そうすると当然、体には負荷がかかるし、ケガをするリスクも上がってしまいます。

 でも体温やコンディションの変化を自覚してからは、その日のコンディションにあう、ベストの練習内容を考えて、取り組むようになりました。やっぱり私たち選手は1日1日の練習が大事。1日でも無駄にするのはもったいないので、ただ量をこなすのではなく、質の高い練習を心がけるようになりました」

――当時は大学生でしたが、周りの選手たちも同じような感じでしたか?

「いえいえ。やっぱり個人差があったと思います。今も後輩の選手たちとよく生理の話をしますが、生理痛が重い子でも『基礎体温測っている?』と聞くと『測ってない』って言いますね」

――やっぱり毎日、測るのは面倒くさい、と思ってしまう気がします……。

「気持ちはわかります。ただ、私は無料アプリを使っていますが、毎日、基礎体温を入力するだけで、体温の変化をグラフで一目で確認できたり、次の生理日を予測してくれたりするので便利ですよ。

 私はなぜ、測った方がいいのかという知識をつけることが、まず大事だと思います。知識が浅いと、生理を記録する大切さに気づけないですから」

生理用品を常に持って歩くのは邪魔(笑)

自分の体を知ることの大切さを語った【写真:松橋晶子】
自分の体を知ることの大切さを語った【写真:松橋晶子】

――自分から積極的に知識を身に着けることが大事なんですね!

「そうですね。ただ記録を続けるのではなく、体の中身――体のリズムやホルモンバランスのこともわかってくると、競技に関する以外の部分でも色々なメリットに気づけますから。

 例えば、痩せやすいタイミングもわかるので、ダイエットしたい人はチャンスを逃さないですし、『生理がちょっと遅れているな』『早いな』など、小さな変化に気づけると婦人科系の不調や病気にも早く気付くことにつながります。

 それに、生理用品を常に持って歩くのは邪魔じゃないですか(笑)。生理の日が予測出来ればその頃準備すればいいし、『急になったらどうしよう』と不安にならないのも大きいです。

 何よりも一人の女性として、自分の体の中身を知ることは、とても大切じゃないかなと思います!」

【プロフィール】杉原 愛子 / Aiko Sugihara

4歳で体操を始め、小学校4年生の時に本格的に体操競技に取り組む。2015年、日本代表として第6回アジア体操競技選手権大会に出場し、日本女子団体総合で金メダル。個人総合でも金メダルを獲得。 2016年リオデジャネイロ、2020年東京、2大会連続オリンピック出場。2017年10月、モントリオールで開催された世界体操競技選手権大会では個人総合決勝の平均台で披露した「足持ち2回ターン」が、新技「SUGIHARA」と命名された。2022年に選手として「一区切り」し、第一線から退くことを発表。翌年、全日本種目別選手権で1年ぶりに競技復帰し、床で2年ぶりの優勝(2回目)を果たした。現在は株式会社TRyASの代表として、体操競技の普及活動に力を注いでいる。その他にエキシビションや講演、リポーター兼解説者などその活動は多岐に渡る。

(W-ANS ACADEMY編集部)

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