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膝の故障リスクが「女性>男性」はなぜ? 「我慢すれば運動できる」が一番やっかい、2つの予防策を紹介

「INTERVIEW / COLUMN」記事

  

膝の故障リスクが「女性>男性」はなぜ? 「我慢すれば運動できる」が一番やっかい、2つの予防策を紹介

著者:W-ANS ACADEMY編集部

2023.10.31

コンディショニング

怪我

新潟医療福祉大学の江玉睦明教授が解説

 ふだんは何ともないのに、部活に入った瞬間、ピリッと(またはズキッと)くるひざの痛み。でも、「ちょっとガマンすれば、大丈夫!」と見てみないフリ、していませんか? 実は男子よりも女子のほうが、はるかに傷めやすい「ひざ」。特に、練習強度が上がる高校生以上になると、痛みに苦しむ選手が急増するそうです。そこで、これまで多くの女子学生アスリートをサポートしてきた新潟医療福祉大学の江玉睦明教授に、ひざの慢性障害の原因から予防対策までを教えていただきました!

 ◇ ◇ ◇

 多くの高校生、大学生の女子選手を悩ませる慢性的なひざの痛み。私は新潟医療福祉大学で女子アスリートのサポートを始めて8年目に入りますが、過去、ひざの慢性障害を抱え、泣きながらプレーする女子大学生選手の姿を、何人もみてきました。

 代表的なひざの慢性障害といえば、別名「ジャンパーひざ」といわれる大腿四頭筋腱付着部炎や膝蓋腱炎といった腱の障害です。

 ともに、ダッシュやストップ、ジャンプなど、急激な動作を繰り返すことにより、膝蓋腱に損傷や炎症を起こし、腱が変性。本来、伸び縮みする腱が、まるで古いゴムのように硬くなり、動かすたびに痛みを感じるようになります。

 ひざの慢性障害は、練習強度が上がる高校年代以降、急増します。「練習を休むほどではない」という軽度の症状を含めると、痛みを抱える選手はおそらく、全国に相当数いると考えられます。

 しかし、この「ガマンすれば運動もできる」という状態が、一番やっかいです。病院で検査も受けず、繰り返しひざに衝撃を受け続ければ、当然、症状は悪化。しまいには前十字靭帯損傷を起こすリスクも高くなります。

 さらに女子は、男子以上に多くの要因を抱えています。

 膝蓋腱障害の要因は、過負荷やオーバートレーニング、筋力や柔軟性の不足またはアンバランス、不良姿勢、食事(栄養)や睡眠が挙げられます。ほか、使用器具やシューズなども関係します。

 加えて女子の場合、性差による骨形態、太ももの筋力、股関節の使い方、そしてホルモンの影響も考えられるのです。

 それぞれについて、簡単に説明しましょう。

 まずは「骨形態」。女性の体は男性よりも骨盤の幅が広い、という特徴があります。これにより、脚を曲げる際にひざが内側に入りやすく、傷めるリスクを高めます。

 次に「太ももの筋力」。女性の場合、大腿四頭筋は硬く、ハムストリングスは弱い傾向があります。隣接するひざは太ももの硬さや弱さの影響を受けやすく、動作のたびに大きな負荷がかかります。

 そして「股関節の使い方」。女性は男性に比べて股関節がうまく使えず、ジャンプの着地時の腰の沈みこみが浅い、という研究報告があります。沈み込みが浅いと、着地の衝撃を下半身全体で受け止めることができず、ひざにかかる負荷は増加。ジャンプを一例に挙げましたが、股関節が硬い、動きが悪いなどでうまく使えないと、あらゆる運動動作でひざにかかる負荷は大きくなります。

 最後に「ホルモン」。女性は生理(月経)周期に伴うホルモンの変動があります。女性ホルモンの一つ、エストラジオールは排卵期と黄体期に分泌量が増加。すると、全身の関節が緩みやすくなり、ひざを痛めるリスクが高まるのです。

選手が自分でできる2つの予防策

慢性的なひざの障害の様々な要因【デザイン:野口佳大】
慢性的なひざの障害の様々な要因【デザイン:野口佳大】

 さて、このようにひざの障害はたくさんの要因が関係し、発症しますが、心配しすぎなくても自分でできる予防策もあります。

 選手一人ひとりができることは大きく分けると二つ。「自分の体を観察する」と「今の体の状態を知る」です。

「自分の体を観察する」とは、体の状態に向き合い、日々の変化を見逃さないこと。

 例えば疲れがたまっているな、と感じたら、ストレッチなどのケアを入念に行ったり、睡眠をしっかりとったりする。食事の量や内容を見直すのもいいでしょう。また、自分の月経(生理)周期を記録する習慣をつければ、排卵期と黄体期を認識できます。すると、「今は関節が緩くなる時期だから、ケガをしやすいかもしれない」と、 トレーニングや練習強度を少し控えることができます。

 一つひとつは小さな対策ですが、これだけでも、ケガのリスクをグッと軽減できます。

 そして、痛みを感じたら放置しないこと。「痛み」は体が発するSOSです。それを見逃すと、今後、前十字靭帯損傷や半月板損傷などの一大事につながりかねません。

 運動後の軽度の痛みのみでプレーに影響がないときは、ストレッチングやアイシング(痛い部位)をして様子を見ましょう。もしも、プレー中(後半に痛みが増悪)やプレーをしていないときも痛みが出たら危険信号。部活の先生や保健室の先生に相談し、一度、整形外科の診察を受けましょう。

 2つ目の「今の体の状態を知る」ですが、先ほどお話ししたように、ひざの障害は、太ももや股関節の状態や使い方も関係しています。自分の体は筋力や柔軟性は十分か? 股関節はうまく使えているか? などがわかると、必要なトレーニングやストレッチが明確になり、ケガをしない体づくりにつながります。

 そこで、「今の体の状態を知る」ために役立つ、チェックテストとトレーニングを紹介します。

 内容は、お馴染みの「スクワット」です。

 実はスクワットは、スポーツのあらゆるアクションにつながる基本姿勢です。しかも、正しく姿勢をとり、動作するためには、下半身の筋力と柔軟性、そして体幹や股関節をうまく使う力が必要。

 つまり、スクワットは今の弱点を知るチェックテストにもなりますし、ケガのしにくい体幹・下半身作りにつながるトレーニングにもなるのです。

「スクワット」は古典的な筋トレ種目なので、簡単に思うかもしれませんが、正確に行うと難しい。実際、インカレに出場するレベル、五輪候補レベルの選手でも、正しく姿勢をとれない選手は珍しくありません。

 意識して動作して初めて、「あ、自分はできていなかった」と気づく選手も多いでしょう。しかし、続けていれば、必ずできるようになります。これからも長く、ベストを尽くしてスポーツに取り組むためにも、今日から続けてみてください。

江玉教授が教えるスクワットのやり方

スクワットのやり方【イラスト/きくち りえ(Softdesign)】
スクワットのやり方【イラスト/きくち りえ(Softdesign)】

<1>両足を肩幅に開いて立ち、つま先とひざを正面に向ける。体重を母趾球、小趾球、かかとの3点に乗せる。

<2>つま先とひざを正面に向けたまま、太ももと床が平行になる高さまで腰を落とす。胸を起こして視線を正面に向けて、両腕を耳の横で伸ばす。お尻から指先を一直線に保つように意識し、5秒程度キープ。このとき、ひざがつま先よりも前に出すぎないよう注意。

<3>前述<2>の姿勢を保持できるようになったら、次のステップで<1><2>を10~15回、続けて行う。これもできるようになったら、2セット、3セットとセット数を増やす。以上ができるようになったら、ももにチューブをかける、重りを持つ、不安定盤に乗るなど、負荷を上げていこう。

NGから見る体の現状【イラスト/きくち りえ(Softdesign)】
NGから見る体の現状【イラスト/きくち りえ(Softdesign)】

Aタイプ
NGポイント:腰が反っている。

原因:股関節がうまく使えない、太もも前が硬い、ハムストリングスが弱い、足首が硬い(背屈できない)、胸椎が硬いなど。

→女子選手に多く見られるパターンの一つ。胸椎が硬く、股関節の屈曲(曲げる動き)が使えず、腰が反ってしまう。

Bタイプ
NGポイント:ひざが内側に入っている。

原因:体幹が弱い、股関節がうまく使えないなど。

→体幹が弱く、骨盤が後傾位になり、股関節をうまく使えない場合、膝を内側に入れる(いわゆるニーイン)姿勢になりやすい。

※ひざとつま先は正面に向けるのがニュートラルポジションだが、骨形態により少しつま先を外側に向けた姿勢がいい人もいる。

Cタイプ
NGポイント:腕が上がっていない、猫背

原因:体幹が弱い、股関節がうまく使えていない、太もも前が弱い、胸椎が硬いなど。

→腕が上がらない人は、胸椎が硬い、股関節が使えないケースのほか、後ろ重心になっている場合もあるので確認を。また体幹が弱いと、姿勢が丸くなりやすい。

教えてくれたのは……

■江玉 睦明 / Mutsuaki Edama

 新潟医療福祉大学理学療法学科教授。理学療法士、専門理学療法士(基礎・運動器)、JSPO-AT。専門は機能解剖学、スポーツ理学療法学、体表解剖学。2016年、同大学内に開設されたアスリートサポート研究センターの副センター長に就任。学生運動選手への医科学の分野のサポート活動の推進や外傷・障害予防と運動機能向上に寄与する各種研究に尽力する。新潟県健康づくり・スポーツ医科学センター(スポーツ外来)の非常勤勤務。

(W-ANS ACADEMY編集部)

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