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厳しい指導とハラスメントの境目とは? チーム内の“目的共有”や意見交換が生む好循環

「COLUMN」記事

  

厳しい指導とハラスメントの境目とは? チーム内の“目的共有”や意見交換が生む好循環

著者:W-ANS ACADEMY編集部

2026.11.06

【写真:写真AC】
【写真:写真AC】

特集「スポーツ界のハラスメントを考える」第3回・パワーハラスメント後編

 スポーツ界のパワーハラスメントやセクシュアルハラスメントは、国際的な課題の一つです。特集「スポーツ界のハラスメントを考える」は、これらの問題の原因や解決法について考えます。今回は、部活動で起こりやすいパワーハラスメントの事例から、その背景や問題点、そして予防や解決する方法について考えます。スポーツ界の人権問題に詳しい中京大学の來田享子教授に話を伺いながら、誰もが安心してスポーツに取り組める環境づくりを学んでいきましょう(全5回の3回目)。

 ◇ ◇ ◇

 第2回では、スポーツの現場で起こりやすいハラスメントの二つの例と、その問題点についてお話しをしました。第3回ではそれらのケースから、ハラスメントを防ぐために、指導者、選手、そして周囲の大人は、どのような意識を持ち、行動すればよいかを考えていきましょう。

 二つのケースですが、一つ目は、「太りすぎだ」「もっとやせろ」「脚が太い」と、指導者が選手の体重や身体的特徴を否定するような言葉を口にした事例。二つ目は調子が悪い理由を私生活や恋愛に原因を求めて叱責し、身体やパフォーマンスに直接関係のない私生活の面まで管理しようとする事例です。

 ともに一般の会社で行われれば問題になる言動ですが、残念ながら「スポーツ界では許される」と思う指導者や空気感はなくなりません。「体が介在する文化」ゆえに起こる、スポーツハラスメントの特徴でもあります。

 しかし、一般社会で許されないことは、当然、スポーツ界でも許されません。身体への不用意な言及は選手の自尊心を傷つけるだけでなく、身体への不安や過度な体重管理につながり、競技生活そのものに悪影響を及ぼす可能性もあります。

 結果、どうなるのか?

 支配的な指導は、選手の自尊心を傷つけるだけではありません。自分で考える力を奪い、指導者の顔色をうかがうようになります。すると、選手の主体性は育ちにくくなり、成長の機会を逃したり、持っている力を十分に発揮できないなど、パフォーマンスにも影響が出ます。

 さらに深刻なのは、選手が指導者に逆らえない関係は、性的な支配につながる恐れもある点です。指導者に逆らえず、依存した状態に置かれた選手は、指導者からの不適切な言動や要求を受けても「嫌です」と拒否できなくなる場合があります。すると、不適切な言動が繰り返されていたとしても、ますます表面化しにくくなり、性被害に気付けない恐れが高まるのです。

 一方で「競技力向上に必要な厳しい練習や明確な規律の指導」と「ハラスメント」を混同するという問題もあります。正当な指導を選手やその家族などから「ハラスメントだ」と言われ続けると、今度は指導者側が萎縮。指導現場は混乱し、競技力が向上しない、チームが崩壊するといった問題に発展します。

指導者の役目は競技成績を達成することだけではない

 では、「厳しい指導や規律」と「ハラスメント」の境目は何だと思いますか?

 それは、練習や規律の目的を選手と共有できているかどうかです。何のためにその練習をするのか、なぜ必要なのかを共有し、科学的な視点から選手と一緒に考え、納得できる形で目標を設定していく。すると、必要な苦言・規律なのか、ただの暴力行為やハラスメントなのかの違いがはっきりします。その際、大切なのは選手が指導者に対し、意見や異議を唱えられる環境であることです。「この練習の目的は何ですか?」「別の方法はありませんか?」と質問や意見交換ができる環境こそ、選手が自ら考え、練習に取り組んでいる姿だと言えます。また、指導者自身も、選手の声を通して自らの指導を振り返ることができるので、お互いにとってよい循環が生まれます。

 選手たちも、「コーチの言っていることはおかしい」と違和感を持ったら、まずはその感覚を否定しないでほしいと思います。「みんな我慢しているから」「昔からこういうものだから」と、我慢したり、無理に納得する必要はありません。その疑問を先生に伝えましょう。

 とはいえ、指導者との関係性によっては、直接意見を伝えることが難しい場合もあります。そんな時は、自分一人で頑張ろうとせず、信頼できるチームメイトや身近な大人(チームや学校関係者など)に相談することも考えてみてください。ただし、こうした負担は本来、選手だけが背負うべきではありません。指導者自身が、選手から意見や疑問が出てくることを当然のこととして受け止め、チーム内で対話ができる環境を整える必要があることを知ってほしいと思います。

 指導者の役目とは、メダルを獲る、優勝するといった競技成績を達成することだけではありません。選手が競技を引退した後、社会の中でどのように生きていくかまで考えて指導することが大切だと思います。たとえ競技成績が伸びたとしても、指導の過程で選手の自尊心や主体性を奪っていたら、健全な育成とは言い難い。選手が自分で考え、判断し、必要な時には質問や意見を伝えられる人間に成長することは、競技者として成長するうえでも重要です。

 そして何よりも、指導者と選手の関係で大切だと思うのは、お互いを仲間として尊重することです。指導者と選手とでは役割の違いがありますが、一方が相手を好きなように扱ってよいわけではありません。強い指導とは、選手を従わせることではなく、選手の身体も人生も、指導者の所有物ではない。その原点に立ち返ることが、ハラスメントを防ぐための第一歩となります。

教えてくれたのは…

■來田享子 / Kyoko Raita
中京大学副学長、スポーツ科学部・大学院スポーツ科学研究科教授。博士(体育学)。日本体育・スポーツ健康学会、日本スポーツとジェンダー学会会長。日本オリンピック委員会理事、日本陸上競技連盟常務理事。神戸大卒、中京大大学院博士後期課程修了。2008年より現職。オリンピック史やスポーツにおけるジェンダー問題を専門とする。中京大学スポーツミュージアム館長。『よくわかるスポーツとジェンダー(ミネルヴァ書房)』でJSSGS学会賞受賞。国際オリンピック史家協会“Vikelas Plaque”受賞。

(W-ANS ACADEMY編集部)

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