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なぜ部活動でパワーハラスメントは起こりやすいのか 「圧倒的な上下関係」から生まれる支配的な指導

「COLUMN」記事

  

なぜ部活動でパワーハラスメントは起こりやすいのか 「圧倒的な上下関係」から生まれる支配的な指導

著者:W-ANS ACADEMY編集部

2026.11.02

【写真:写真AC】
【写真:写真AC】

特集「スポーツ界のハラスメントを考える」第2回・パワーハラスメント前編

 スポーツ界のパワーハラスメントやセクシュアルハラスメントは、国際的な課題の一つです。特集「スポーツ界のハラスメントを考える」は、これらの問題の原因や解決法について考えます。今回は、部活動で起こりやすいパワーハラスメントの事例から、その背景や問題点、そして予防や解決する方法について考えます。スポーツ界の人権問題に詳しい中京大学の來田享子教授に話を伺いながら、誰もが安心してスポーツに取り組める環境づくりを学んでいきましょう(全5回の2回目)。

 ◇ ◇ ◇

Q.部活動で起きた2つのハラスメントです。まずはそれぞれのケースを読み、ハラスメントが起きた背景や解決策、予防する方法などを自分なりに考えてみましょう。

CASE1
 新体操部所属。毎日、部活の前に監督の前で体重計を計っているが、「あと2キロ増えたら大会メンバーから外す」「脚が太い」など、毎日細かく数字や体形をチェックされる。計測のことを考えると頭痛や吐き気が止まらなくなり、医務室で寝ることが増えた。保険医さんに「大丈夫か?」と言われるが、相談したい反面、監督に伝わるのが怖くて言えない。

CASE2
 バレーボール部所属。調子が悪いと男性の監督から、「生理か?」「遅くまで遊び歩いているからダメなんだ」などと言われたり無視されたりする。自分の力が足りないとわかっているが、生理でも遊んでもいないのにみんなの前で言われると、恥ずかしさで消えたくなる。

「太りすぎだ」「もっとやせろ」「脚が太い」と、指導者が選手の体重や見た目を否定するような言葉を口にする。あるいは調子が悪い理由を私生活や恋愛に原因を求めて「競技に集中していないからだ」と叱責される。スポーツの現場ではCASE1、2のような事例が後を絶ちません。

 このようなハラスメントが繰り返される背景には共通の問題があります。一つは指導者と選手の強い上下関係。もう一つは、選手・指導者の身に染み付いた、「男らしさ」「女らしさ」というジェンダーの社会規範です。この二つがセットになると、「支配的でリーダーシップを発揮する男性=強く優れた指導者」、「指導者に反抗せず、素直で従順な女性=良い選手」と考え、この2つがセットになった人間関係が構築され、指導法に影響。「競技力を上げる指導」が「指導者の意に添うようにコントロールする行為」にすり替わってしまいます(女性指導者の割合が20%前後と少なく、ロールモデルが少ない中では、男性のジェンダー規範に縛られ、支配的なリーダー像が標準になる)。

 スポーツは身体を通して競技力を高める活動です。体重や心身のコンディションはパフォーマンスに関係します。しかし、それらの情報はあくまで競技力の向上やコンディショニングに活用するものであり、否定的に評価したり、相手を傷つけたりするためのものではありません。CASE2にある「生理か?」といった言葉も、体調を確認するうえで必要だったならば、プライバシーに配慮し、適切な聞き方をするべきでした。「選手のためを思って厳しく言っている」と思われる方もいるかもしれませんが、ただ「太い」「重い」と言って傷つけることと、選手の健康や競技力向上のために指導することとは、まったく別物です。

金髪に染めて「競技力に影響する」根拠はあるのか

 CASE2のように、パフォーマンスと私生活を絡めて叱責する指導者も、スポーツハラスメントに見られる特徴です。確かに睡眠や食事といった生活習慣が競技パフォーマンスに影響することはありますが、髪型や髪の色、放課後の時間の使い方や恋愛関係まで、身体やパフォーマンスに直接関係のない私生活の面まで管理しようとします。

 例えばよくある事例に「金髪に染めるのは競技に集中していない証拠だ」「チームの結束が乱れる」という発言があります。しかし、誰もが納得のいく「髪を染めると競技力に影響する」根拠はあるのでしょうか? 金髪にしても競技力は向上しないかもしれませんが、逆に落ちることもありません。そうであれば干渉する理由などなく、むしろ選手が金髪にすることで気持ちが上がる、試合に勝てそうな気がするというのであれば、本人の決断を尊重すればいいと思うのです。

 最初に触れたように指導者と選手間の「圧倒的な上下関係」やジェンダー規範の影響を受けた支配的な指導の現場では、選手が指導者の言うことに従うほど「よい選手」と評価されます。選手側は指導者に逆らえば試合に出られなくなるのではないか、競技を続けられなくなるのではないかと考え、「イヤだ」と思っても自分の考えを伝えたり、異議を唱えたりすることが難しくなります。

 後編では、指導者や選手、そして周囲の大人はどのように行動していけばよいかをお話しします。

教えてくれたのは…

■來田享子 / Kyoko Raita
中京大学副学長、スポーツ科学部・大学院スポーツ科学研究科教授。博士(体育学)。日本体育・スポーツ健康学会、日本スポーツとジェンダー学会会長。日本オリンピック委員会理事、日本陸上競技連盟常務理事。神戸大卒、中京大大学院博士後期課程修了。2008年より現職。オリンピック史やスポーツにおけるジェンダー問題を専門とする。中京大学スポーツミュージアム館長。『よくわかるスポーツとジェンダー(ミネルヴァ書房)』でJSSGS学会賞受賞。国際オリンピック史家協会“Vikelas Plaque”受賞。

(W-ANS ACADEMY編集部)

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