企業の男性「家、来ない?」透けた性的な下心 「私の競技を汚される」アスリートとして貫いた矜持――フィンスイミング・松田志保「女性アスリートとスポンサー」
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企業の男性「家、来ない?」透けた性的な下心 「私の競技を汚される」アスリートとして貫いた矜持――フィンスイミング・松田志保「女性アスリートとスポンサー」
著者:W-ANS ACADEMY編集部
2024.03.07
キャリア

「THE ANSWER的 国際女性ウィーク」7日目 女性アスリートとスポンサー/松田志保インタビュー後編
「W-ANS ACADEMY」の姉妹サイト「THE ANSWER」は3月8日の国際女性デーに合わせ、さまざまな女性アスリートとスポーツの課題にスポットを当てた「THE ANSWER的 国際女性ウィーク」を今年も展開。「“つながり”がつくる、私たちのニューノーマル」をテーマに1日から8日までアスリートがインタビューに登場します。さまざまな体験をしてきたアスリートといま悩みや課題を抱えている読者をつなぎ、未来に向けたメッセージを届ける内容を「W-ANS ACADEMY」でも掲載します。
7日目はフィンスイミングの松田志保が登場します。テーマは「女性アスリートとスポンサー」。競技で不可欠となる活動資金。トップ選手になれば、何社ものスポンサーがつくが、それはごく一部。松田は国内トップ選手でありながら水泳指導で生活費を稼ぎ、遠征費は自己負担や単発のスポンサーを探して工面しています。後編では、スポンサー営業でのリアルな体験と考えを明かしてくれました。(取材・文=THE ANSWER編集部・神原 英彰)
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◇ ◇ ◇
待っていても、始まらない。松田志保は25歳で地元・関西から上京し、水泳インストラクターで生活費を稼ぎながら、自らスポンサーを探した。
最初にアプローチをかけたのは、大手食品メーカーの江崎グリコ。パワーポイントを使い、必要な内容はネットで調べて、経歴や成績を書き、サプリメントの商品提供を願い出た。ホームページの問い合わせフォームからメールを送信した。
「正直、フィンスイミングを支援したからといって、企業にメリットがあるわけではない。競技の知名度からしても、何の広告にもならない。だから情に訴えて、こんな目標があって、こんな選手になりたくて、こんな競技にしていきたいと……」
特に、国を代表して国際大会に出場するのに遠征費は自己負担という現状に「私がこうやって困っている同じ想いを後輩にさせたくない」と訴えた。実際に会ってもらい、契約を取り付けた。そして、今も江崎グリコの支援は継続している。
ただ、本人も自覚している通り、マイナー競技で支援のメリットは決して大きいとは言えない。
五輪競技との差を感じる機会は大きい。しかも個人競技。協会のサポートが手厚い団体競技とも異なる。商品提供をしてくれることはあっても、資金提供はほぼなく、遠征費はアジアで20~30万円、欧州や南米で50~60万円の自己負担が必要になる。
五輪競技ではないことを理由に断られることも少なくない。
「五輪だけがスポーツじゃないので、どうなんだろうとは思いますが……企業側もどこにお金を使うかは考える。商品提供でも『五輪競技にしか使えなくなりました』と言われて、打ち切られたこともあります。それは、自分ではどうしようもできないので」
お金を出す企業と、出してもらうアスリート。立場が作るハラスメントに直面したことがある。
ある時、スポンサーを探す中で知り合った企業の男性から自宅に誘われた。「家賃いくらのところに住んでるの?」「そんな生活してて寂しくないの?」と見下すような態度を取りながら「家、来ない?」と誘われた。性的な下心も感じた。
きっぱりと断った。
女性としてアスリートとしての矜持「私の好きな競技が汚れる感じがする」

松田には女性として、何よりアスリートとして矜持がある。
「確かに、お金はない。でも、馬鹿にされて、下心も見えて……。そこまでしてお金は欲しくないし、そんな人に支援してほしくない。私の好きな競技が汚れる感じがする。やりたくてやっているのに、こんなにお金はかかるのに、こんな競技環境なのに、嫌なものにはしたくないので。それなら頑張って働きますよ!」
もちろん、スポンサーとは好ましい関係が大半だ。
松田の理念に共感し、支援をしてくれる。支援だけじゃなく、国内で最も大きい日本選手権に担当者が足を運んで、応援に駆けつけてくれた時は心からうれしかった。一方で、それだけ情熱を注いでいる競技だから、第一人者としての厳しさも持っている。
競泳も継続している松田。東京五輪では大橋悠依が個人2冠を達成したように、オリンピックの舞台で金メダルを獲得する選手たちとのレベルの差を感じ、「フィンスイミングが評価されないのも仕方がない部分もちょっとあります」と言う。
「競泳みたいに競技力が高くない。私もたまたまマイナー競技だったから頑張ったら日本代表になれて、日本記録を出せて、世界選手権に行けて。世界選手権で決勝に残っていますが、もっと競泳でポテンシャルのある人がフィンスイミングをやったら、一瞬で置いてかれちゃうんだろうなと、私でも思います。
確かに、お金も含めて競技環境は良くないけど、成績を出さない限りは五輪競技と並べない。最近の世界選手権で決勝に残ったのが私と男子1人の2人で、アジア選手権でもメダルを取ったのは女子2人、男子1人。世界選手権で優勝でもしない限り、五輪競技の人たちと並べないんじゃないかと思っています」
今年2月にカタールで行われた世界水泳では本多灯、瀬戸大也らがメダルを獲得して奮闘。「私たちは世界選手権に行ってメダルが獲れていないので、それで支援してくださいと言ったところで、まだまだだから」と自分に言い聞かせるように言った。
今回、インタビューに応じてくれた松田はいかにフィンスイミングが恵まれないかを嘆いて、同情を誘いたいわけではない。
支援がないのはマイナー競技であることを言い訳にせず、まずは競技にスポットライトが当たるように結果を出すこと。その前段階として、フィンスイミングのことを「まず、知ってもらえたら」というのが、一番の願いだ。松田自身もSNSやYouTubeも積極的に投稿している。
「困っていることも知られていない。日本代表というだけで支援してもらえると思っている人が多い。世界選手権でメダルを獲れるようになったら、ちょっとは普及になるし、そうなったら支援したいと思っていただける人も増えて、競技人口も増えるし。そんな形が本当に理想ではあります。
でも、ベースは私は競技をやりたいから、楽しいからやっている。機会があれば、見に来てほしいです。こんなに速いし、迫力のあるものだから。競技としては、やっぱり埋もれてしまうので。競泳でさえ、最近は日本選手権の観客も少なくなっている。もっと知ってほしいなとは思います」
次世代のフィンスイマーのために「もうちょっとアスリートとして、生きていきたい」

32歳。これからも仕事と両立しながら競技を続けていく。「もうちょっとアスリートとして、生きていきたい」というのが本音。それは自分と同じように困る次世代のフィンスイマーが一人でも減ってほしいから。
「私は普通に働いて、生きているだけなんで。フィンスイミングで生計は立てられてない。もうちょっと露出が増えればと思うし、なんでも仕事はやりたいけど、機会がないので。テレビやラジオも出たいんですけど……どうやったら、出られるんですかね?」と笑った。
選手としては「世界選手権でメダルを獲りたい。それが一番の目標。自己ベストが出せると思っているうちはやめる必要もない。いつまで現役をやるかは考えてはないですが、頑張れるだけ頑張っていく」と泳ぎ続ける。
フィンスイミングの未来が今よりもっと、輝いていることを願って。
(「THE ANSWER的 国際女性ウィーク」最終日はバスケットボール・馬瓜エブリンが登場)
【フィンスイミング・松田志保さんの「人生で救われた、私のつながり」】
「谷川哲朗さんと会わなかったらフィンスイミングをやっていない。なんとなく声をかけてくれた大学に行って、競泳をやっていただけだけど、大体大に行って良かったと思うので、自分が選んできたものは間違っていなかった。あとは支援していただいているスポンサーさん。皆さんのおかげで生きていける。今、支援をいただいているのは同じ時期に始まっているので、あの時に頑張ったから今があると思う。そのおかげで徐々に増えていって支援をいただいているので、感謝しかありません」
※「THE ANSWER」では今回の企画に協力いただいた皆さんに「あなたが人生で救われたつながり」を聞き、発信しています。
■松田 志保 / Shiho Matsuda
1991年5月27日生まれ。兵庫県出身。小学3年で水泳を始め、須磨学園高(兵庫)ではジュニアアリンピックやインターハイで活躍。大体大4年でフィンスイミングと出会う。卒業後、水泳指導をしながら競技を続ける。2018年7月世界選手権50メートルビーフィンで念願の決勝進出を果たし、日本記録を更新した。リレー、短水路種目などを合わせて12種目で日本記録を保持。SNSはYouTube、X、インスタグラム、Facebookを運用し、公式サイトで個人・企業からの支援を募集している。
【YouTube】https://www.youtube.com/channel/UCmAiwM3fJz5AUHxfh5j66LA
【X】https://twitter.com/527shiho
【Facebook】https://www.facebook.com/527shiho
【Instagram】https://www.instagram.com/527shiho
(W-ANS ACADEMY編集部)
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