「INTERVIEW / COLUMN」記事
「自分で立てた目標」に日々前進できるか 勉強もスポーツも同じ…早大合格へ導いた積み重ねの力――競泳・松本信歩選手
著者:長島 恭子(W-ANS ACADEMY編集部)
2025.05.08
キャリア

特集「勉強と部活動の両立」、松本信歩選手(競泳)インタビュー後編
競技と学業の両立は、日々全力でスポーツに取り組む多くの学生アスリートにとって永遠のテーマと言えるもの。部活動後に自宅へ帰り勉強をしようと思っても睡魔に襲われてしまう……という悩みもよく聞こえてきます。一方で、競技でも学業でも好成績を残しているアスリートがいるのも事実。そんな文武両道を実践する人たちの姿に学ぶ今回の特集。競泳女子200メートル個人メドレーで昨夏のパリ五輪に出場した松本信歩選手(あいおいニッセイ同和損保)は、中学・高校時代から学業にも励み、早稲田大学に一般入試で合格しました。後編では早大受験に至った経緯と、自身の進路選択について話を聞きました。
◇ ◇ ◇
――松本さんは東京学芸大学附属高校を卒業後、早稲田大学に進学します。早大を選んだ理由を教えてください。
「一番は水泳をきちんとやれる環境がありつつ、学業でもレベルの高い環境であったことです。それから同じ水泳クラブの先輩たちが、何人か早大に通われていたことも大きかったです。
受験を決めた早大のスポーツ科学部は、キャンパスが埼玉県の所沢。通学時間が高校の時以上にかかるため、大学に通いながら水泳もきちんとできるのかという不安が、結構ありました。でも先輩たちから、『頑張れば問題なくできると思うよ』という話を聞けたことも、早大を選ぶ大きなきっかけになりました」
――早大には一般選抜を受験しての合格です。大学受験の準備はいつ頃から始めましたか?
「実は早大の受験を決めたのが11、12月頃。一応、高校の勉強の積み重ねはあったので、赤本で過去問をできるところまでやって、何とか受験に間に合わせました。高校時代は毎日、学校と水泳の練習をこなすので精一杯だったので、塾には行っていません」
あれもこれもと自分を追い詰める必要はない

――限られた時間のなかでの合格、素晴らしいです! 改めて日々の積み重ねの大切さを感じました。
「私は子どもの頃から、自分で立てた目標に向かってちゃんと頑張れるタイプだったんです。例えば試験が1か月後にあるとして、テストの範囲の量から自分が身に着けるのにどのぐらい時間がかかるのかを考えると、1か月前の今、どのぐらい理解していないとダメなのか、という目安が立ちます。あとはそれに向かって、『今日、自分は何をするのがベストかな?』と考えながら、その日のやることを決めていました。
『今日、眠いなかで2時間やるのか、一回寝て翌日元気な状態で1時間やるのか』を比べて、『明日やった方がいいな』と思ったら寝るし、『1週間でいけるな』と思った科目は1週間でガーっと集中してやる。その積み重ねです。
水泳も同じ。小学生の頃から『この大会で勝ちたい』と自分で目標を決め、それに向かってちゃんと頑張って結果を出す、ということができていました。逆に目標をきちんと決めていない時は、あまり良い結果が出なかったですね。勉強も水泳も、結果を出すためには直前に全部詰め込むわけにはいきません。とにかく、やると決めたことをコツコツ続けました」
――学業と部活動の両立に悩む学生に、何かアドバイスをお願いします。
「あれもこれもやらなきゃと、自分を追い詰める必要はないと思います。最悪、学生生活は勉強だけでもいけるわけで……。この言い方はどうかなとは思いますが(笑)、『スポーツがちょっとダメでもいいかな』ぐらいの楽な気持ちで取り組んでもいいのではないでしょうか。
高校生のうちは、まだまだ、いろんな道に舵を切れる可能性が十分あります。『スポーツで結果が出なかったからダメ』『スポーツに集中してあまり勉強の成績は良くなかったからダメ』などと深く考えすぎず、こっちがダメになっても、あっちにいけばいいかなぐらい、力を抜いてもいいんじゃないかな」
――松本さんは高校時代、自分の将来像をどう描いていましたか?
「今もそうですが、『絶対にこの仕事に就きたい』というように細かくは考えていませんでした。ただ、自分が何かやりたいかと思った時、その道に行ける準備をしておきたい、と思っていました」
大学入学当初、卒業後は選手をやめて就職しようと考えていた

――進路選択もその一つ、ということでしょうか?
「そうですね。私は5歳から水泳を始め、小学3、4年生の頃には週6日、プールに通っていました。でも、当時から両親に『勉強もちゃんとやりなさい』と言われてきました。私自身も高校時代までは、学業を最優先に考えて、進路を決めていました。というのも、いつまで水泳のタイムが伸びるかもわからないし、怪我をして競技を続けられなくなる可能性もあるからです。
早大に入学した当初もやはり、卒業後は選手をやめて就職しよう、とも考えていました。もちろん、競技にも全力で取り組みましたが、将来についてはいろいろな可能性を考え、大学生活を過ごそうと思っていましたね。でも結果的に、高校ではスポーツを全然やっていない友達ができ、それが良かったと思います」
――どんな点が良かったのでしょうか?
「うちの高校の出身者は、数学オリンピックでメダルを取るような、勉強がめちゃめちゃできる人もいっぱいいますが、突然『音楽やります!』『芸術やります!』と言って始める人がいたり、アイドル活動をやっている人がいたりと、本当に多方面で活躍している人がたくさんいるんです。そういったすごい人たちと出会えたことで、今も水泳の世界とも違ういろいろな刺激を受けています」
――最後に今の選手としての目標、そして社会人としての目標をそれぞれ教えてください。
「競技の面では毎年、国際大会の日本代表に入ること。国際大会で自己ベストを出せる選手になること。そして、これらの目標を毎年ちゃんとクリアし、最終的には2028年オリンピック・ロサンゼルス大会で200メートル個人メドレー決勝の舞台に立ち、活躍する。これが今の時点の一番大きい目標です。社会人としては本当にまだ始まったばかりですが、社会人としての自覚、そして責任感をしっかり持ち、仕事に励んでいきたいです」
■松本 信歩 / Shiho Matsumoto
2002年4月3日生まれ、東京都出身。5歳で水泳を始める。東京学芸大附竹早中→東京学芸大附高→早稲田大。24年3月に臨んだ国際大会代表選考会にて、女子200メートル個人メドレーで2分09秒90のタイムで2位となり、派遣標準記録をクリア。2024年パリ五輪出場を決め、本大会では競泳女子200メートル個人メドレーで準決勝に進出した。25年4月、あいおいニッセイ同和損保に入社。高校1年から所属していた東京ドームスポーツのプールを拠点に、競技生活を続ける。また、早大在学中に様々な資格取得にも取り組み、現在、行政書士、宅地建物取引士、簿記2級、スペイン語検定5級などを保有する。
(W-ANS ACADEMY編集部・長島 恭子 / Kyoko Nagashima)
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