「INTERVIEW / COLUMN」記事
「何かおかしい」との気づきになる 女子選手の“本当の状態”を見抜く3つのデータを産婦人科医が解説
著者:W-ANS ACADEMY編集部
2025.01.28
コンディショニング

特集「カラダダイアリーをつけよう!」第2回、産婦人科医の視点で見る記録の効果
W-ANS ACADEMYがスポーツをするすべての人に提案したい「カラダダイアリー(体日記)」習慣。実はダイアリーを習慣にするだけで、自分自身で体調管理ができるようになるのはもちろん、競技のパフォーマンスアップにもつながります。
カラダダイアリー特集の第2回は、長年、部活動生からトップアスリートまでサポートする産婦人科医の松田貴雄先生に、記録を書くことで得られる効果とアドバイスを聞きました!
◇ ◇ ◇
「体のデータや体調をダイアリーに記録する習慣をつけると、自分自身で体が平常かどうかわかるようになります」
そう話すのは、部活動生からトップアスリートまで、数多くの女性アスリートをサポートする産婦人科医の松田貴雄先生。特に「女性の場合、できれば記録してほしい」のが、『基礎体温』。基礎体温の変化で、食事から摂取しているエネルギー量が足りているか、足りていないかの目安になる、と言います。

「排卵が正常に行われている女性の基礎体温は、低温期(月経中~排卵日)と高温期(排卵日~月経前)の2相に分かれます。高温期に入ると約0.3~0.6℃、体温が上がりますが、もし体温が上がらなかった場合、エネルギー量(食事量)が足りていない恐れがあります」
よく見られるのが、エネルギー不足の自覚がない選手が、『しっかり食べているはずなのに体が動かない』と勘違いしてトレーニング量を増やしてしまうケース。食事量が足りないまま運動量を増やすことでますますエネルギー不足になり、調子を崩してしまうそうです。
「基礎体温をつけておけば『高温期のはずなのに体温が上がらないのはどうしてかな?』と、変調に気づけます。すると『食事の量は十分かな?』『トレーニング量は多すぎないかな?』などと自分で考えるようになります」(松田先生)
メンタルの調子が落ちる原因の7~8割は糖質不足

食事で摂るエネルギーは、体や脳を動かすガソリン。足りなくなると体が動かなくなるのはもちろん、判断力や集中力の低下やメンタルの不安定を招く要因になります。
「判断力・集中力の低下はミスを招きますし、エネルギー不足によって思うように動けない、成績が上がらない……となればメンタルの状態にも影響します。特に部活動生やアスリートの場合、体脂肪率を気にしてエネルギー源である糖質を極端に制限する傾向が見られます。
実はメンタルの調子が落ちる原因の7~8割は、糖質不足だと言われています。脳がストレスを感じると甘いものを欲するようになりますが、もし、甘いものを食べたり飲んだりしたら気分転換できる、元気になる、と感じたら糖質を制限していないかどうか、食生活を振り返ることが非常に大切です」(松田先生)
加えて、スポーツをする人は週に1回、除脂肪体重を記録するといい、と松田先生。
「体脂肪率を記録する人が多いのですが、体重と同様、『どれだけ少なくなったか?』ばかり気にするようになり、こちらも食事量を制限する要因になります。
トレーニングの成果を正しく見るには、除脂肪体重の記録が適しています。除脂肪体重とは筋肉+骨の重量。数値がプラスになれば、トレーニングによって筋肉量や骨量が増えた証拠です。よりポジティブな気持ちでコンディションを整えるようになり、競技にもより打ち込めますよ」
脈拍を計ってチェックしたい自律神経のバランス

さて、『基礎体温』に加えて、松田先生が「できれば記録してほしい」と言うのが『脈拍』。
「毎日の脈拍が安定していたら、自律神経のバランスが良く、体調も安定している印です。起床後、そして練習後に脈拍を計り、記入しておきましょう。
例えばオーバートレーニングの人は、心拍数が下がりません。もし、日頃の起床時の脈拍数が60回なのに20回近く増えて80回くらいの場合、オーバートレーニングの恐れがあります(ほかに、走った直後150回くらいまで上がった脈拍数が1分経っても40以上下がらない場合も注意)。
また、試合前などは緊張のため、起床時の脈拍数が普段より10回くらい高くなる人もいます。その場合、神経が興奮状態にあり、よく眠れていないと考えられるので、何日も続くようであれば注意が必要です」
体の記録をダイアリーにつけることは、「何かおかしいな」という気づきになる、と松田先生。
「スポーツの現場では、自分では調子がいいつもりでも、実は体調を崩していたというケースは多々あります。今の体調が平常かどうかは、カラダの本当の状態と自覚症状が一致しないとわかりません。体の記録をつけておくと、『なぜか記録が下がる』『頑張っているのに調子が上がらない』という時、その要因に気づけるきっかけになりますよ」
松田ドクターの『これだけは記録しよう!』
【1】基礎体温
体温計は小数点以下2ケタまで計れるものをチョイス! 朝目覚めた瞬間、体を動かす前に計測を。パジャマにつけたりする機器でも可。
【2】脈拍
計測の方法は、手首の血管を指で押さえて15秒間の脈拍数をカウント。それを4倍にした数を記録。デバイスの自動計測を活用するのもあり。
【3】除脂肪体重
除脂肪体重は週1回記録を。計算式は「除脂肪体重=体重[kg]×(100-体脂肪率[%])÷100」。除脂肪体重が増えたら摂取カロリーも1kgあたり60kcal増やしましょう。
教えてくれたのは…
■松田 貴雄 / Takao Matsuda
医学博士。産婦人科医。独立行政法人国立病院機構 西別府病院 スポーツ医学センター センター長、順天堂大学医学部産婦人科客員教授。日本スポーツ協会認定スポーツドクター、日本障がい者スポーツ協会 公認パラスポーツ医。サッカー、陸上競技を中心に、学生からトップアスリートまでをサポート。2006~09年、サッカー女子日本代表の帯同ドクターを務めたほか、長年にわたり女子アスリートの競技力向上のための研究に携わる。
(W-ANS ACADEMY編集部)
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