「INTERVIEW / COLUMN」記事
「食べない」女性アスリートを襲う健康リスク 「エネルギー不足」に陥った先に待つ本当の怖さ
著者:W-ANS ACADEMY編集部
2024.06.24
コンディショニング
体重管理
食事

日本体育大学・須永美歌子教授が解説する「スポーツにおける相対的エネルギー不足」(後編)
無理な食事制限やオーバートレーニングにより生じる「スポーツにおける相対的エネルギー不足」。前編ではエネルギー不足が様々な健康障害やパフォーマンスの低下につながることをお話しました。後編では特に女性アスリートが注意したい「食べない」ことによるマイナス面についてのお話。前編に続き、日本体育大学の須永美歌子教授に解説していただきます。
スポーツをする人が陥りやすい、「利用可能エネルギー不足」(※エネルギー摂取量から運動によるエネルギー消費量を引いて、除脂肪体重で除した値が30kcal/kg/day未満の状態)。この状態が続くと、頑張って練習やトレーニングを続けても、記録やパフォーマンスが落ちたり、体作りがうまくいかなかったりすると、前編でお話ししました。
「利用可能エネルギー不足」はまた、ホルモン分泌にも悪影響を及ぼします。すると月経が止まってしまう「無月経」や、骨が弱くなる「低骨密度」といった女性特有の健康障害の引き金に。特に体脂肪が低く、エネルギー消費量が高い競技――例えば陸上の持久系競技や審美系競技の選手、バレエダンサーなどは発生率が高くなります。
昔の話ですが、私が教鞭を執る日本体育大学で、女性アスリートの健康に関する研究のため、新体操部員を対象に月経や疲労骨折の有無、栄養の摂取状況などを測定したことがありました。
その時、一人の女子学生から「実は5か所、疲労骨折をしている」と伝えられました。「このことが知られたら、私は練習を休まなければならない。でも、団体競技だから皆に迷惑がかかってしまう。休むわけにはいかないから、監督には内緒にしてほしい」。そう訴える彼女に、「監督には言わない。でも、体は今すごく危ない状態になっているので、婦人科の先生に相談しようね」と、大学内の健康管理センターへ行くように促したことがありました。
一部の競技で根強い「体重が少ないほうがいい」というイメージ
一部の競技、種目ではいまだに「食べること=悪いこと」という風潮は根強くあります。そのため、例えば大学の研究や部活動内で食事調査を行っても、食べていないのに「食べた」とウソの申告をする学生もいます。また、「食べても吐いている」「食べた内容を(食べ過ぎたという罪悪感から)少なく書いている」と、心配するチームメイトがこっそりと教えてくれたこともあります。
そうなってしまうのは、残念ながら強くなるため、よい記録を出すためには「食べないほうがいい」「体重が少ないほうがいい」というイメージが、学生や指導者のなかに根強くあることが影響しています。
とはいえ私自身も、陸上をやっていた大学時代、記録を出すために体重を減らそうと思い、食事を抜いたり、絶食したりすることもありました。ですから、選手たちの気持ちもわからないでもありません。
しかし、カラダの正しいメカニズムの知識を得てからは、当時、自分がとった行動を振り返ると後悔ばかりです。
カラダはエネルギー源となる糖質などを食事で十分に摂らないと、筋肉を分解し、生きるためのエネルギーに使ってしまいます。また、体力や集中力も落ちるので、練習の質も低下します。つまり、行っただけの練習やトレーニングの効果は得られないのです。
「やせれば速くなる、強くなれる」「結果を出すためには減量が欠かせない」と考え、無理な減量を行えば、結局は「相対的エネルギー不足」になり、健康を害し、パフォーマンスは落ちます。それでは、頑張って練習やトレーニングを重ねた成果を発揮できません。それどころか、疲労骨折につながれば、競技生活を長く続けられない恐れもあります。
また、今は想像するのは難しいと思いますが、「利用可能エネルギー不足」により無月経が続いたり骨が弱くなったりすると、生涯にわたる健康状態にも影響します。
練習日誌を書く習慣をつけるのが予防におすすめ
では、エネルギー不足を予防しつつ、いいコンディションを保つにはどうすればよいのでしょう?
おすすめは練習日誌を書く習慣をつけることです。例えば、練習内容(強度)や練習時間、食事の内容や回数、そして体重や体脂肪の変化、体調を日頃から日記に記すとよいでしょう。利用可能エネルギー不足になれば、当然、急激な体重の減少が見られる、疲れやすくなる、生理不順などの症状が表れるため、重症化の予防や改善につながります。
繰り返しますが、エネルギー不足の状態でトレーニングを続けても十分な効果は得られません。適切なエネルギーや栄養を摂ることは、最高のパフォーマンスを発揮するために不可欠です。元気をキープしながら、パフォーマンスの向上を目指すことが大切ですよ。
(W-ANS ACADEMY編集部)
Sunaga Mikako
須永 美歌子
日本体育大学教授
日本体育大学教授、博士(医学)。日本オリンピック委員会強化スタッフ(医・科学スタッフ)、日本陸上競技連盟科学委員、日本体力医学会理事、日本トレーニング科学会会長。運動時生理反応の男女差や月経周期の影響を考慮し、女性のための効率的なコンディショニング法やトレーニングプログラムの開発を目指し研究に取り組む。大学・大学院で教鞭を執るほか、専門の運動生理学、トレーニング科学の見地から、女性トップアスリートやコーチを指導。著書に『女性アスリートの教科書』(主婦の友社)。
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