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スポーツをする人は知っておきたい Q&Aで学ぶ「生理×コンディション」の6つの基本知識

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スポーツをする人は知っておきたい Q&Aで学ぶ「生理×コンディション」の6つの基本知識

著者:W-ANS ACADEMY編集部

2023.04.26

月経

最低限知っておきたい「生理とコンディション」の6つの基礎知識【写真:Getty Images】
最低限知っておきたい「生理とコンディション」の6つの基礎知識【写真:Getty Images】

日本体育大学の須永教授が生理にまつわる6つの質問に回答

 毎回、生理が来るたびに、憂鬱になったり、悩んだりしていませんか? そこで、体調やコンディションを整えるうえで、最低限知っておきたい「生理とコンディション」の6つの基礎知識を、日本体育大学の須永美歌子教授に直撃! これらを知るだけでも、生理にともなう体調の変化に、慌てたり、落ち込んだりせず、過ごすことができますよ。

 ◇ ◇ ◇

Q.1 生理の来るサイクルとスポーツのパフォーマンスって関係があるの?
A. あります。いつ、どんな不調が起こるかを知ることがとても大切です。

 実は日本のトップアスリートたちも、月経周期(生理の始まった日から、次の生理の前日までを指す)によるコンディションの変化を実感している、というデータがあります。その原因は、女性ホルモンの分泌の変動によるもの。特に生理中・生理前は、心身ともに変調を感じやすく、練習や試合にも大きく影響するほど、体調不良を訴える人もいます。

 ただし、感じる症状や強さなどは個人差が大きく、「先月は不調だったけれど今月は大丈夫」といった個人の変動もあります。

 大切なのは、月経周期のいつ頃、自分にどんな症状が現れやすいかを知ること。すると、事前に痛み止めなどで対処できますし、「今はそういう時期だから仕方がない」と割り切れるので、無駄に落ち込んだり、自分を責めたりすることもしなくなりますよ。

Q.2 次の生理がいつ来るのか予測できる方法はありますか?
A. 基礎体温で予測できます!

 基礎体温を毎日つけると、体温の変化から次の生理の日を予測できます。

 初潮を迎えて以降の女性は、生理のサイクルに伴い、基礎体温が変化。体温の低い「低温期」と高い「高温期」をいったりきたりします。ですから、体温の変化をみると次の生理や排卵のタイミングが予測でき、「あ、今日か明日、生理が始まるな」とわかるようになります(グラフ参照)。

 基礎体温は、起床したら「体を動かす前に」測るのが鉄則。小数点以下2桁まで数値が出る『基礎体温計』を使って測りましょう。また、検温データをグラフ化したり、次の生理開始日を予測したりするアプリを活用すると、記録も習慣化しやすいと思いますよ。

 基礎体温を記録する習慣が身につくと、生理や排卵日を予測できるだけでなく、「イライラしやすい」「体重が増える」「お腹が痛くなる」「便秘になりやすい」など、生理のサイクルに伴う体調の変化も予測できるようになります。コンディションを整えるうえでも、役立ちます。

生理が重い日もいつも通り運動してOK ただし注意点も

月経のある女性の体温は、1か月の間に低温期、高温期が訪れます。両期間の体温差は約0.3度以上。初潮を迎える前、または閉経後は低温期のみになります【デザイン:野口佳大】
月経のある女性の体温は、1か月の間に低温期、高温期が訪れます。両期間の体温差は約0.3度以上。初潮を迎える前、または閉経後は低温期のみになります【デザイン:野口佳大】

Q.3 生理が重い日も激しい運動をして本当に大丈夫?
A. 問題ありません。ただし、激しい痛みを繰り返す場合、早めに医師に相談を!

 生理は病気ではないので、重い日でもいつも通り運動することに問題はありません。ただし、生理にともなう体調不良により「体を動かすのもツラい」という日もありますよね。私もときどき、学生から相談されますが、可能であれば監督やコーチに相談して、練習量を調整する、あるいは見学することもすすめています。

 また、毎回、練習を休まなければならないほどのひどい生理痛がある場合は、何か病気が隠れている恐れもあります。早めに婦人科を受診しましょう。

 それから、生理の重い日に経血のもれが気になる場合でも、夜用のナプキンを使用すると、重くて不快感を覚える場合があると思います。動きやすくて漏れにくい、薄めで羽根つきのナプキンを使用し、こまめに交換することをおすすめします。

Q.4 女性アスリートの場合、どんなことが原因で生理不順になるケースが多いですか?
A.「運動に必要なエネルギーの不足」「オーバートレーニング」「精神的ストレス」が3大要因です。

「視床下部」という単語を聞いたことはありますか? 視床下部とは、脳にある「体のコントロールタワー」。あらゆるホルモンの分泌をコントロールするほか、呼吸、体温など、様々な体の反応を調節する役目を担っています。生理不順は、視床下部の機能低下からくる体の不調の一つで、実は女性アスリートに多いのです。

 女性アスリートが生理不順になりやすい要因は、「運動に必要なエネルギーを食事から十分に摂れていない」「オーバートレーニング」、そして「精神的ストレス」の3つ。アスリートはマジメで感受性の強い方が多く、自分で自分を追い込みがちなので、これらのリスクが非常に高いのです。

 生理不順が続くと、最終的に無月経になります。選手自身が気をつけるだけでなく、指導者や家族の方にも、選手の様子をよくみてあげて欲しいと思います。

 最後に、初経から2~3年間は、体が安定していないため、生理不順になりがちです。1~2か月、間が空くことはよくあります。先ほど言ったように精神的ストレスも月経不順の要因ですので、若い選手は心配しすぎないことも大切ですよ。

生理が来ないほうがラク… 無月経だと何がいけない?

Q.5 ぶっちゃけ生理が来ないほうがラクだと思うんですが……。
A. 無月経はカラダが発するSOS。運動のパフォーマンスが落ちたり、骨折の不安も高まったりします。

 スポーツをするうえでは、生理がないほうが気がラク。そんな風に思われる方は、少なくないようです。でも無月経の選手はトレーニング効果が出にくいと言われています。

 無月経の原因はさまざまですが、スポーツをする女性に多いのが「視床下部性無月経」。Q.3で触れた、脳の視床下部や卵巣の機能が低下し、女性ホルモンが分泌されにくくなることで、月経が止まってしまいます。

 無月経の背景には、慢性的なエネルギー不足があります。エネルギーが不足すれば、練習に集中できなかったり、トレーニングを重ねても、筋力や持久力のアップにつながらなかったりします。ですから、生理のないほうが、運動のパフォーマンスが落ちるリスクが高いのです。

 無月経が続くと骨折しやすくなる、病気が隠されている恐れがあるほか、将来の妊娠に影響が出るケースもあります。3か月以上生理が来ない状態が続いたら、見て見ぬふりをせず、家族や指導者、保健室の先生などに相談し、婦人科医を受診するようにしましょう。

Q.6 生理中は貧血が心配です。鉄分を多く摂った方がいい?
A. 生理期間中に限らず、鉄の多い食品を意識して摂って!

「貧血」とは、体内で酸素の運搬係を担当する血液中のヘモグロビンが、何らかの原因で減少。それにより体が酸欠状態になることを言います。すると、頑張っているのに持久力が落ちている、だるくて練習できない、疲れやすい状態になります。

 女性に多いのは、体内に蓄えられた鉄の減少による「鉄欠乏性貧血」。その理由のひとつは、毎月の生理で血液とともに鉄が排出されるためです。また、鉄の7割はヘモグロビン中にありますが、スポーツをする女性は、運動中に酸素をたくさん使うため、一般の人よりも多くの鉄が必要です。

 体内の鉄を補うには、食べ物から摂取するのが一番。貧血は生理中だけなるわけではないので、生理中だけ一生懸命、鉄を摂るのではなく、毎日の食事からコツコツ、摂りましょう。

☆鉄が豊富な食品例

体内に一度に吸収できる鉄の量は決まっています。いっぺんにたくさんではなく、1日3食、鉄の多い食品を摂るように意識しましょう。

動物性食品……肉や魚は肉が赤いものを選ぶのがコツ→牛赤身肉、あさり、かつお、レバー(鶏、豚)、煮干し、卵黄
植物性食品……非ヘム鉄は体内の吸収率が悪いので、吸収を高めるビタミンCやタンパク質を一緒に摂って→納豆、小松菜、水菜、枝豆、高野豆腐、切り干し大根 

(W-ANS ACADEMY編集部)

Sunaga Mikako

須永 美歌子

日本体育大学教授

日本体育大学教授、博士(医学)。日本オリンピック委員会強化スタッフ(医・科学スタッフ)、日本陸上競技連盟科学委員、日本体力医学会理事、日本トレーニング科学会会長。運動時生理反応の男女差や月経周期の影響を考慮し、女性のための効率的なコンディショニング法やトレーニングプログラムの開発を目指し研究に取り組む。大学・大学院で教鞭を執るほか、専門の運動生理学、トレーニング科学の見地から、女性トップアスリートやコーチを指導。著書に『女性アスリートの教科書』(主婦の友社)。

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