「INTERVIEW / COLUMN」記事
進学&寮生活で生理が止まった学生 春は要注意、ストレスから起こる無月経の正体
著者:長島 恭子
2023.04.12
月経
「女性アスリートのカラダの学校」―「ストレスから起こる無月経」
スポーツを習い始めたばかりの小学生、部活に打ち込む中高生、それぞれの高みを目指して競技を続ける大学生やトップカテゴリーの選手。すべての女子選手たちへ届ける連載「女性アスリートのカラダの学校」。小学生からオリンピアンまで指導する須永美歌子先生が、体やコンディショニングに関する疑問や悩みに答えます。今回は「ストレスから起こる無月経」。
◇ ◇ ◇
皆さん、「視床下部」という言葉を聞いたことはありますか?
視床下部とは、脳にある「体のコントロールタワー」です。自律神経の中枢で、成長ホルモンや睡眠ホルモンなど、あらゆるホルモンの分泌をコントロールするほか、呼吸、体温など、様々な体の反応を調節する役目を担っています。
例えば、運動の際、呼吸が激しくなり、心臓の拍動もバクバクと強く、速くなりますよね? これは、体がしっかり動くよう、筋肉にエネルギーを供給するための反応の一つ。このように、呼吸や心臓、血液の流れなどを、運動に適した状態に切り替えるのも視床下部の役割です。
ホルモンや体温、血流などは、自分の意思ではどうにもコントロールできません。それらの調整を一手に引き受ける視床下部は、命綱ともいえる、とっても大事な器官。それだけに何らかのダメージを受けると、体の機能が低下し、様々な不調が現れます。
女性が生理不順になる、生理が止まってしまうのも、視床下部の機能低下からくる体の不調の一つ。なかでも女性アスリートに多いのが「視床下部性無月経」です。
生理は卵巣から分泌される女性ホルモンの増減によって、毎月、定期的に起こります。そして、生理周期に合わせて「女性ホルモンを増やして!」「減らして!」と体に指令を出しているのが、視床下部です。
視床下部性無月経は、視床下部の機能が低下することで女性ホルモンが分泌されにくくなり、発症します。その要因となるのが、急激な体重減少や、利用可能エネルギー不足(運動に必要なエネルギーが食事からとれていない状態)、オーバートレーニング、そして精神的ストレスです。
無月経の治療に際し、特に対策が難しいのがストレス。
人間関係の悩み、部活、勉強、将来への不安など、ストレスの要因は人や時期によって異なり、それこそ無限にあります。また、「ストレス」と聞くと心の問題だけに受け止められますが、精神的なダメージは視床下部の機能を低下させるため、身体の状態にも影響。体調を崩してパフォーマンスが低下する、食欲が過剰になる、あるいは逆に食べられなくなるなど、様々な不調やトラブルを引き起こします。
特に春は学生、社会人アスリート問わず、無月経の引き金となるストレス要因が増える時期です。例えば、進学や就職で環境が変わる、学年が上になり責任が増す……などなど。私がこれまでみてきた選手たちのなかには、進学に伴い寮に入り、他人への配慮が原因で無月経になってしまった学生は、少なくありません。
アスリートは真面目で感受性の強い方が多く、自分で自分を追い込みがちです。選手自身に「気を付けて」といってもなかなか難しいので、指導者や家族も、選手の様子をよくみてあげましょう。もちろん、チームメートや友達の立場から、話を聞いてあげることも、とても大事だと思います。
「痩せていない人」も発症する無月経、その原因は…
さて、女性アスリートの無月経は、痩せている人、食べていない人がなりやすい、という印象がありますが、無月経という病気は「痩せていない人」も発症します。
例えば、同じくホルモン分泌異常が原因で起こる無月経に「多嚢胞性(たのうほうせい)卵巣症候群」があります。こちらは特に男性ホルモンであるアンドロゲンが高くなり、月経不順、多毛、ニキビ、肥満などの症状が出ます。また、排卵が正常に起こらないので、不妊の原因にもなります。
無月経になる疾患には、「視床下部性無月経」や「多嚢胞性卵巣症候群」のほかにも色々あり(図参照)、なかには重篤な病気が隠されている恐れもあります。そのため、原因の特定については、必ず医師の診断が必要なのです。
急激な体重減少や利用可能エネルギー不足につながる、トレーニングの量や強度の増加がないにも関わらず、生理が止まる、生理不順がある場合、視床下部性無月経以外の病気も考えられます。
とにかく25日~38日に1回、生理がこないことが3か月以上続いたら(※)、親や部活動の先生、あるいは保健室の先生など、話やすい身近な大人に相談を。一人で悩み、抱え込まず、必ず、婦人科を受診してくださいね。
(※)1か月~2か月間であれば、多くの場合、生理がなくても問題ありません。特に初経から3~4年間は月経のサイクルが不安定なので、次の生理までに時間が空くケースもあります。
(長島 恭子 / Kyoko Nagashima)
Sunaga Mikako
須永 美歌子
日本体育大学教授
日本体育大学教授、博士(医学)。日本オリンピック委員会強化スタッフ(医・科学スタッフ)、日本陸上競技連盟科学委員、日本体力医学会理事、日本トレーニング科学会会長。運動時生理反応の男女差や月経周期の影響を考慮し、女性のための効率的なコンディショニング法やトレーニングプログラムの開発を目指し研究に取り組む。大学・大学院で教鞭を執るほか、専門の運動生理学、トレーニング科学の見地から、女性トップアスリートやコーチを指導。著書に『女性アスリートの教科書』(主婦の友社)。
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