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“糖質×水分×たんぱく質”で疲れた体を回復! 女子選手と試合期の食事…「ごほうび」には要注意

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“糖質×水分×たんぱく質”で疲れた体を回復! 女子選手と試合期の食事…「ごほうび」には要注意

著者:W-ANS ACADEMY編集部

2025.11.01

コンディショニング

食事

【写真:写真AC】
【写真:写真AC】

特集:「ピリオダイゼーションに合わせた試合後の食事」第1回、栄養補給編

 今、世界のスポーツ界で提唱されている「ピリオダイゼーション」(期分け)に則った食事。これは「1年間の競技の活動に合わせて、計画的に食事・栄養を摂る」という考え方です。W-ANS ACADEMYではこれまで、「準備期」(3月特集)、「試合期~試合前編」(7月特集)と期分けに沿った食事について特集をしてきましたが、今月は「試合後の食事」についてピックアップ。第1回は、学生アスリートから日本代表選手までの栄養サポートを行う日本大学の松本恵教授に、食事や栄養のポイントについて聞きました!

 ◇ ◇ ◇

 毎週、時には連日、試合が続く試合期。試合後の体は激しい運動によって、筋肉が傷ついたり、エネルギーや水分が失われたりしています。そのため、何も考えずに食べたり飲んだりを繰り返していると、試合を重ねるごとに疲労が蓄積。痛みや疲れを引きずる、練習や試合に集中できないといった状態になり、パフォーマンスの低下やケガを引き起こします。

 この時期は、試合後の疲れをしっかり取り、次の試合に向けてコンディションを整えることが重要です。そのためには、睡眠やストレッチのほか、食事の内容も意識を。疲労困憊となった体を「いかにしてリカバリー(回復)するか?」を第一に考え、「いつ」「何を食べるか」を決めましょう。

 リカバリーのための食事の目的は主に2つ。1つ目はエネルギー消費による体重減少を防いで、疲れた体をできるだけ元の状態に戻すこと。2つ目は、激しい運動によって心身が受けたストレスや筋肉の損傷から回復すること。栄養素で言うと「糖質」「たんぱく質」、そして「水分」の3つをしっかり摂ることがポイントです。

 まず、糖質の役割ですが、主に試合で消費したエネルギーを補給してくれます。糖質は摂るタイミングも重要。試合直後にスポーツドリンクやスポーツゼリー、あるいは果汁100%のオレンジジュースなど、消化・吸収のスピードが速い糖質を補給すると、疲労回復に効果的です。

 これらは同時に、水分も補給できる点でもおすすめ。試合時は筋肉を激しく動かすため、体温が上昇。体の中がオーバーヒートしたり、脱水症状を起こしやすくなります。試合中はもちろんのこと、試合後も水分をしっかり摂って、体内の熱を冷まします。

 そして、試合後の食事は「糖質」と「水分」でエネルギーや水分を体にチャージしながら、「たんぱく質」で筋肉の修復をサポートします。

 ここで覚えておきたいのは、筋肉はたんぱく質だけでなく、糖質(炭水化物)も一緒に摂ることで作られる、ということ。女子アスリートは糖質を控えがちですが、試合期は特にしっかり摂っていきましょう。

試合後の焼肉や回転寿司は逆効果の可能性も

試合後の焼肉は胃腸にかかる負担が大きい【写真:写真AC】
試合後の焼肉は胃腸にかかる負担が大きい【写真:写真AC】

 また、献立は胃腸にかかる負担が少なく、消化・吸収をスムーズにする料理を選びます。というのも、試合後は緊張と疲れで胃腸も弱っているため、消化吸収の力が低下しているから。学生を見ていると解放感から「焼肉に行くぞー!」となりがちですが、実は肉の脂や副菜の定番・キムチなどの刺激物を消化できるほど、内臓にパワーは残っていません。スタミナをつけるつもりが、かえって翌日まで疲れを引きずることになります。

 さらに、疲れていると食中毒にもなりやすいので、あたりやすい生ものも避けて。仲間と一緒に焼肉や回転寿司に行くのは、シーズン最後の楽しみにとっておきましょう。

 特に、階級制競技の選手は注意が必要。急速な減量を行って試合に臨むうえ、1日数試合をこなす場合が多いため競技時間が長く、日中はほとんどエネルギー補給ができません。一度に大量の食事を摂ると、胃腸不良や下痢を引き起こす恐れがあります。自分が考えている以上に体は消耗しているので、まずはお腹に優しいものを摂ってあげてください。

 さて、試合期にもう一つ注意してほしいのは、「体重が増減しないようにする」ことです。

 実は試合ごとに解放感や「ごほうび」としてつい食べ過ぎてしまう選手は、体重が変動しやすい傾向があります。というのも、そういう選手は暴飲暴食後に「試合に向けて体重を落とさなくては」と、無理な減量を繰り返すからです。

 また、試合期に入ってから「体重が重い」と焦って食事を制限する選手も、競技に関わらずたくさんいます。でも、体作りや減量・増量は試合期の前の準備期にやっておくべきことで、試合期に入ったら、体重を一定に維持できるよう努力したほうがいい。試合の1週間、2週間前に体重の増減を繰り返せば、パフォーマンスに影響するだけでなくケガにもつながります。

 女子選手の場合、痩せようとする傾向が多く見られますが、試合当日に力が入らなかったら、何のために練習やトレーニングを頑張ってきたかわからないですよね。それに、力を発揮できないどころか、体調不良や脱水、ケガなどを起こす危険が高くなるので、できるだけやめてほしいと思います。長い試合期を良いコンディションで過ごすためには、とっても大事なことですよ。

 次回は試合後におすすめの食品や献立について、具体的にお話ししましょう。

教えてくれたのは…

■松本 恵 / Megumi Matsumoto

管理栄養士/公認スポーツ栄養士。日本大学文理学部体育学科教授、博士(農学)。北海道大学大学院農学研究科を修了後、スポーツ栄養の現場サポートに携わるようになる。サウスオーストラリア大学招待研究員を経て2011年より現職。同大学の柔道部、陸上競技部、トライアスロン部、体操部などの選手の栄養サポートを行うほか、オリンピックでは2021年東京大会、2024年パリ大会でサーフィン日本代表をサポート。また、日本ライフセービング協会ハイパフォーマンスチーム専門スタッフ(栄養士)として活動中。

(W-ANS ACADEMY編集部)

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