「INTERVIEW / COLUMN」記事
暑くなってからでは遅い! 勝負は夏前の2週間、専門家が指南する「暑熱順化」のコツ
著者:長島 恭子(W-ANS ACADEMY編集部)
2025.06.18
コンディショニング

特集「女子スポーツの暑さ対策」第2回、杉田正明教授に聞く暑熱順化の基礎
梅雨が明ければ夏も本番! この時期からの「暑熱対策(暑さ対策)」は、練習と同じくらい大切です。疎かにすれば、疲労が蓄積したり、体が動かなくなったりするだけでなく、熱中症になりやすくなる危険も……。暑熱対策特集の第2回は、本格的な夏を迎える前に実行したい「暑熱順化」について。長年、トップアスリートのコンディショニングをサポートする、日本体育大学の杉田正明教授に聞きました!(取材・文=W-ANS ACADEMY編集部・長島 恭子)
◇ ◇ ◇
夏が近づくと、心配なのが熱中症。実は本格的に暑くなってから「暑熱対策」を講じるのでは遅い、と杉田正明先生。
「気温が上がると、人間の体は体内に熱がこもらないよう、皮膚から熱を逃がしたり発汗によって放熱したりすることで、体温を一定に保ちます。ところが急激に気温と湿度が上がると、暑さに慣れていない体はこもった熱をうまく外に逃がすことができず、体温が上昇。熱中症を引き起こす原因になります。暑熱下のスポーツ時は特に危険。事故を防ぐには、本格的に暑さを迎える前に『暑熱順化』を行うことが大切です」(杉田先生)
暑熱順化とは、文字通り「暑さ(暑熱)に体を慣らす(順化)」こと。暑い環境下で運動を繰り返し行うことで、暑さに対する耐性をつけ、熱中症になる危険性を低くします。
「人間の体は、全身を廻る血液が皮膚の表面近くに集まることで、皮膚の表面から熱を逃がしたり、発汗によって熱を放散したりします。つまり、体内の熱をどんどん外に出すには、十分な血液量が必要です。暑熱順化を行うと、体内の血液量がアップします。すると、体の『汗をかくシステム』がしっかり働き、汗をかき始めるタイミングが早くなったり、汗の量も増えたりします」
さらに血液量が増えることで、「真夏もしっかり動ける体」「バテにくい体」をキープできる、と杉田先生。
「血液は筋肉のエネルギー源の運搬役。つまり運動時にいいパフォーマンスをするには、十分な血液量が必要です。ところが暑い時期は、『体温調整のシステム』と『筋肉』との間で、血液の奪い合いが激しくなります。その結果、血液量が足りなくなり、体が思うように動かない、すぐバテるなど、パフォーマンスにも悪影響を及ぼします。熱中症予防だけでなく、暑い季節・場所でもいいパフォーマンスを発揮するためにも、暑熱順化は不可欠です」
特に注意すべきは「3日以上あけない」こと

さて、暑熱順化を進めるうえでのポイントは以下のとおり。
●気温が高くなり始める5~6月に開始
●暑熱順化トレーニングの期間は約2週間
●暑熱順化に必要な1日の運動量は中強度(ややきつい強度)の場合で60~100分、高強度(インターバルトレーニングなど)の場合は30分前後(※1日の運動量を目安に通常の練習・トレーニングメニューを組み、しっかり汗をかくこと)
●順化のためのトレーニングは3日以上あけない
特に注意したいのは「3日以上あけない」という点。トレーニングを中断すると、順化の効果は短期間で消失してしまうそうです。
「トレーニングを2週間続けることで、暑熱環境下でも運動に適した気候と変わらないパフォーマンスが発揮できるようになります。暑熱順化の最中、例えば3日間、急に気温が下がることもあります。その場合は、汗をかきやすいようにウェアを着こんで運動するといいでしょう。ただし、体内の熱を下げるには、かいた汗を蒸発させるのがポイント。汗の蒸発を妨げるウェアは避けてください。また、運動によるトレーニングのほか、湯船にやや熱めのお湯(40℃程度)を張り、10分程度入浴するのも効果的です」
第3回では、暑くなった時の熱中症対策を紹介します!
教えてくれたのは…
■杉田 正明 / Masaaki Sugita
日本体育大学体育学部教授、博士(学術)。日体大ハイパフォーマンスセンター長、日本陸上競技連盟科学委員会委員長、日本オリンピック委員会(JOC)情報・医・科学専門委員会サポート部門長。専門は運動生理学、トレーニング科学、バイオメカニクス。五輪、アジア大会、サッカーW杯等で様々な競技の日本代表に帯同し、科学的見地からトップアスリートのコンディショニングをサポート。高所トレーニングの第一人者としても知られる。
(W-ANS ACADEMY編集部・長島 恭子 / Kyoko Nagashima)
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