Home

「INTERVIEW / COLUMN」記事一覧

信頼関係を築く“良いトレーニング” 金メダリストとの二人三脚で「本当に嬉しかった」こと――S&Cコーチ・柴田昌奈さん

「INTERVIEW / COLUMN」記事

  

信頼関係を築く“良いトレーニング” 金メダリストとの二人三脚で「本当に嬉しかった」こと――S&Cコーチ・柴田昌奈さん

著者:長島 恭子(W-ANS ACADEMY編集部)

2026.05.13

キャリア

S&Cコーチの柴田昌奈さんと視覚障害者柔道女子代表の工藤博子選手【写真:編集部】
S&Cコーチの柴田昌奈さんと視覚障害者柔道女子代表の工藤博子選手【写真:編集部】

特集「スポーツ界のお仕事」第2回、ストレングス&コンディショニングコーチ・柴田昌奈さんインタビュー後編

 スポーツ界で働くのは、選手だけではありません。スタッフや審判など、多くの人たちが選手たちと一緒に努力し、スポーツを作り上げています。今回は「スポーツ界のお仕事」特集として、ストレングス&コンディショニング(S&C)コーチの柴田昌奈さんにインタビュー。後編では、これまで担当してきた選手とのエピソード、これから取り組みたいことなどを聞きました。(取材・文=長島 恭子)

 ◇ ◇ ◇

――大学時代にS&Cコーチとして学び始め、その後は2度の転職からバレーボールの実業団チーム・NECレッドロケッツでS&Cコーチに採用された柴田さんですが、2017年から東京五輪を目指すバレーボール女子日本代表を担当されます。

「当時のNECの監督だった山田晃豊さんから『僕の夢はチームから選手だけでなく、スタッフからも日本代表を出すこと。挑戦してみないか』と推薦していただきました。その後、中田久美監督とお会いし、『一緒にやりましょう』と言っていただきました。

 日本代表を見るようになり、初めて“世界”を意識しました。例えば日本人選手と比べ、海外のトップ選手は身長が高く、その差を縮めることはできません。でも調べてみると、当時の代表だった荒木絵里香さんをはじめ、身長1メートルあたりの筋肉量は日本人選手の方が多かったりする。『じゃあどうやって動きや強さを強化していけばいいのか?』と、さらにトレーニングの深みにハマっていきました。私は昔から学校の勉強は苦手でしたが(笑)、好きなことに対しては人一倍探求心が強いタイプなんです。海外チームのトレーナーと拙い英語で情報交換したり、ナショナルトレーニングセンターで他競技のトレーニングを、『あれいいな』と盗み見して自分の引き出しを増やしたり(笑)。今でも日々勉強です」

バレーボール女子日本代表のS&Cコーチに。最前列右から2番目が柴田さん【写真:本人提供】
バレーボール女子日本代表のS&Cコーチに。最前列右から2番目が柴田さん【写真:本人提供】

――東京五輪後は、柔道女子日本代表のS&Cコーチに就任されました。バレーから柔道へ、まったく違う競技を担当します。

「これも前任のトレーナーさんから、『彼女たちはかなり高重量を扱ってトレーニングする。自身もしっかりトレーニングされている方にお願いしたい』と声をかけていただきました。私自身、ベンチプレス競技に取り組んでいて、日々トレーニングをしていたため、推薦してくださったようです。

 団体競技と異なり個人競技では1対1のセッションが多くなるので、最初は団体競技との違いに戸惑うことも多々ありました。そこで、関わった選手一人ひとりの“メモ帳”を作成。ケガの状態、好きなトレーニング、たわいもない会話などを記録することで、コミュニケーションも取れるようになっていきました」

――柴田さんの仕事は選手の体を預かるという仕事。選手との信頼関係がとても大事だと思います。

「そうですね。S&Cコーチと選手の信頼関係は、人としての相性ではなくその選手にとって良いトレーニングを提供することで構築されると思います。今では笑い話になりますが、実は角田夏実さん(2024年パリ五輪柔道48キロ級金メダリスト)とも出会った当初は、お互いに手探りな部分があり、考え方の違いから、少し距離があったんですよ」

柴田さん自身もベンチプレス競技に取り組んでいる【写真:編集部】
柴田さん自身もベンチプレス競技に取り組んでいる【写真:編集部】

――でも、最後は信頼関係を築けた。例えば、角田さんにはどのようなプログラムを提案したのでしょう?

「私はバレーボール女子日本代表にいた頃から、選手の体の変化やデータを見ながら、できるだけ選手個々の意向を聞いて、トレーニングに対してのモチベーションが上がるようなプログラムを組むように心掛けています。角田さんは膝や腰にケガも抱えていたので、『スクワットはできるだけ回避したい』という意向でした。でも、下肢の強化はしなければいけない。ですから代わりに、彼女の得意なベンチプレスでバリエーションを増やすことで、下肢も含め全身を鍛えるようにしていきました。そうやっていくうちに、信頼関係も築けていったのかな、と思います。

 パリ五輪の前年には、『どんなトレーニングやりたい?』と聞いたら、『信頼しているので、柴田さんが考えたプログラムなら何でもいいです』と言ってくれたんです。その言葉を聞いた時は本当に嬉しかったですね。『めっちゃいい選手じゃん、苦手とか思ってごめん!』って思いました(笑)」

――そしてパリ五輪後は独立し、個人事業主として複数の競技を掛け持ちされています。

「これが今の自分の成長になるなと思って挑戦しています。月曜はパラバドミントン、火曜はビーチバレー、水・木は実業団の柔道、金曜はパラ柔道……といった具合です。長身かつ細身のビーチバレーボール選手をサポートした後に、大柄な男子の柔道選手のサポートをして、その後に、女子柔道の軽量級の選手のサポートが入ったり……と、頭の切り替えが必要ですが、すごく引き出しが増えました」

撮影日は、視覚障害者柔道女子代表の工藤博子選手(シミックウエル株式会社所属)をトレーニング。「柴田コーチとトレーニングを続け、体の使い方が根本的に変わりました。先日の試合では、初めて『ちゃんと投げる』という感覚を掴めました」(工藤さん)。【写真:編集部】
撮影日は、視覚障害者柔道女子代表の工藤博子選手(シミックウエル株式会社所属)をトレーニング。「柴田コーチとトレーニングを続け、体の使い方が根本的に変わりました。先日の試合では、初めて『ちゃんと投げる』という感覚を掴めました」(工藤さん)。【写真:編集部】

――このお仕事の“やりがい”をどこに感じていますか?

「私はトレーニングを通じて人生を作ってきました。“やりがい”というよりも、“好き”という気持ちが原動力です。何かを成し遂げるためというより、毎日トレーニングを考えるのが好きで、それによって選手の体が変化していくのを見るのがワクワクして楽しい。『好きこそものの上手なれ』という言葉がありますが、自分が自分らしくいられて、自分の良さを活かせる最高の仕事だと思っています」

――S&Cコーチとして、将来取り組んでいきたいことや目標はありますか?

「スポーツに関わる仕事をする多くの方が、一度は五輪に携わりたいと考えると思いますが、私もその一人です。S&Cコーチとして右も左も分からないまま東京大会を経験し、続くパリ大会では、サポートした選手たちがメダルを獲得してくれたことは、とても良い経験になりました。今はパラバドミントンと視覚障害者柔道のパラリンピック競技に関わっているので、次のロサンゼルス大会で、自分のための五輪・パラリンピックは一区切りかなと考えています。

 その先は、どんな競技レベルであれ私を必要としてくれる選手に対して『このトレーニングをやれば大丈夫だよ』と背中をポンっと押し、しっかり結果を出させてあげる。そんなトレーナーであり続けたいですね」

【ストレングス&コンディショニングコーチ・柴田昌奈さんの「スポーツ界で働きたい人たち」へのアドバイス】

「トレーナーになりたいと思った“きっかけ”やポジティブな理由を、徹底的に深掘りして、そのスペシャリストになってほしいです。『選手の力になりたい』なら、それはテーピングの技術なのか、心に寄り添うことなのか。その時に感じた『自分はコレだ!』と思う道をぜひ、とことん追求してください。

 あとは、ぜひ現場(試合会場など)に足を運んで“現場のリアル”を感じてほしいです。試合前のスタッフの動きを見て、『どんなウォーミングアップをしているのかな?』と観察したり、試合中や試合後にどんなサポートをしているのかに注目してみたり。あとは、会場の歓声を聞いて『こんな中でチームスタッフとして働けたら最高だな』と肌で感じたら、そのワクワクする感情を、ずっと大切にしていってほしいですね」

■柴田 昌奈 / Akina Shibata

 大学時代に所属した研究会でストレングス&コンディショニングを学び、卒業後は教員の道へと進んだものの、4年で退職してフィットネスクラブに就職。31歳の時にバレーボール・NECレッドロケッツのトレーニングコーチに就任すると、2017年からは東京五輪に向けたバレーボール女子日本代表へ。東京五輪後には柔道女子日本代表のS&Cコーチとして、角田夏実のパリ五輪柔道48キロ級金メダルに貢献。現在は独立し、個人事業主として複数競技の指導を掛け持ちしている。

(W-ANS ACADEMY編集部・長島 恭子 / Kyoko Nagashima)

SUPPORTERSサポーター