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「女性限定」でこそ語れる悩み 20歳女子クライミング選手が大会開催、原点にある成長期の苦い経験

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「女性限定」でこそ語れる悩み 20歳女子クライミング選手が大会開催、原点にある成長期の苦い経験

著者:山田智子

2025.08.01

キャリア

女性限定のボルダリング大会「nAnA」を企画した小倉紗奈さん【写真:山田智子】
女性限定のボルダリング大会「nAnA」を企画した小倉紗奈さん【写真:山田智子】

スポーツクライミング・小倉紗奈さんが女性限定ボルダリング大会をプロデュース

 関西地区最大級のボルダリング施設「ロックメイト滋賀大津」で、6月28日に女性限定のコンペティション「nAnA」が開催されました。この大会をプロデュースしたのは20歳の現役クライマー、小倉紗奈さん。イベントでは参加者がクライミングを体験するだけでなく、小倉さんが契約するワコールのコンディショニングウェアブランド「CW-X」のサポートを得て、女性がスポーツをする上で起こる悩みについて学び、語り合うセミナーも実施されました。同志社大学に通う現役の大学生は、どのような思いでこの女性限定イベントの開催に辿り着いたのでしょうか。自ら企画し、実施した背景に迫りました。(取材・文・写真=山田 智子)

 ◇ ◇ ◇

 参加したのは、小学生から40歳以上と幅広い年代の約90人の女性。カラフルで、さまざまな形をした「ホールド」という突起を手がかり、足がかりにして、高さ5メートル近い壁に何度も何度も挑んでいきます。

「がんばれ、がんばれ」
「ナイスチャレンジ!」
「あと30秒、最後までがんばって」

 クライマーたちに、壁の上から励ましの声をかけ続ける女性がいました。このコンペティションをプロデュースした小倉紗奈さん。2023年、2024年のボルダーユース日本選手権ジュニア(U-20/2005、06年生まれ)で2連覇。2025年5月には、シニアの日本代表としてワールドカップに出場した日本トップクラスのクライマーです。

小学生から40歳以上までの女性が高さ約5メートルの壁に挑戦【写真:山田智子】
小学生から40歳以上までの女性が高さ約5メートルの壁に挑戦【写真:山田智子】

 小倉さんは現在20歳。ジュニアからシニアに上がったばかりで今がまさに伸び盛り。一般的に考えれば、自分の競技活動だけに集中したい時期です。にもかかわらず、彼女はなぜ大会の開催に尽力するのでしょうか。

「私は小学3年生の時にクライミングに出会いました。小さい頃からずっと一緒にクライミングをしてきた仲間が、成長していくにつれて、いろいろな壁にぶつかって、どんどん競技を離れていきました。

 クライミングは個人競技に見えて、実は1つの課題(登るコース)を登るためにみんなで集まって、動きについてアドバイスしあったり、応援しあったりというカルチャーがあるんですね。だから、“チームメイト”がいなくなったことが寂しくて……。仲間を増やすために、女性クライマーが直面するであろう障壁を減らせるような活動をしたいと、高校生の頃から考えていました」

 練習拠点としているロックメイトのスタッフから「大会をやってみない?」と声をかけられ、2024年12月28日に第1回の「nAnA」を実施。今回が2回目の開催となりました。

女性クライマーが感じる、さまざまな障壁に配慮したコンペ

女性限定の空間の中で参加者はクライミングを楽しみました【写真:山田智子】
女性限定の空間の中で参加者はクライミングを楽しみました【写真:山田智子】

 フランス語で「女の子」という意味の「nAnA」を大会名に冠したこのコンペには、「女性が長く、楽しくクライミングを続けられる」ための配慮が随所に施されています。

「女性限定のコンペティションは関西にはほとんどなく、ムキムキな男性に混じって参加することに抵抗を感じている女性や、人と競い合うことが苦手な女性も少なくありません。初めてコンペに挑戦する方も、上級者レベルの方も、さまざまな年齢でも、すべての方が楽しんでいただけるようなコンペにしたいと、さまざまな障壁をなくすように考えました」

 キッズだけでなくOver-40のカテゴリーを設けたのもその1つです。

「一般的なコンペではお子さんを応援するだけというママさんも多いのですが、nAnAは親子で参加されている方も多くいます。普段はあまり見ることのできないお母さんが頑張っている姿が、お子さんの刺激になったら嬉しいです」

 順位発表の方法も考慮しました。「特にママさん世代や始めたばかりの方の中には、順位が発表されること自体に抵抗を感じる方もいます。順位は上位3位のみ発表とすることで、コンペに参加しやすくしました。コンペに挑戦することもクライミングの楽しみの1つです。nAnAがきっかけとなり、コンペに参加する女性の輪を広げられたらいいですね」と小倉さんは話します。

知識と実践の両面から女性クライマーの悩みに寄り添う

Team CW-Xの石井未来さん(右)も参加しBaby Schoolを実施【写真:山田智子】
Team CW-Xの石井未来さん(右)も参加しBaby Schoolを実施【写真:山田智子】

 そして小倉さんが最もこだわったのはコンペティションとは別に、女性が長く楽しくクライミングを続けるためのセミナー「Baby School」をセットで開催することでした。

「Baby School」とは、CW-Xのブランドスローガンである「Be a better you」(より良い自分になる)を体現する活動で、小倉さんも名を連ねる「Team CW-X」のメンバーが、コンディショニングの重要性や体を動かすことの大切さを伝えています。今回はワコール人間科学研究開発センターの研究成果を基に、股関節や下半身の効果的な動かし方や生理との付き合い方など、女性が快適に楽しく登り続けるためのコンディショニングの大切さについてのレクチャーを行いました。

「成長期に入ると、女性ホルモンの影響で体が大きく変化します。小さい頃は体重が軽いので指の力だけで登れるんですけど、成長するとそれだけでは登れなくなる。私は体つきが変わっても、これまで通りに指だけで登ろうとして骨折をした経験があります」

 知識があれば、怪我を避けることができるかもしれません。小倉さんと同じTeam CW-Xメンバーで、日本代表クライマーの石井未来さんが、「身長やパワーがない女性でも、全身を上手く使えば、指や腕に無理がない動きでゴールを目指せる」ことを実演。コンペ参加者が上手く登れなかった課題を2人がスムーズにクリアしていくと、「すごーい」と感嘆の声が上がりました。

「今回のBaby Schoolに参加してくれたキッズたちが、同じような悩みにぶつかった時に、今日のセミナーのことを思い出して、乗り越えられる未来になったら嬉しいですし、大人の女性も、日々のクライミングライフをもっと快適に楽しく過ごしてほしいですね」

 クライミングを一緒に楽しむ“チームメイト”が増えていく未来へ――。女性クライマーの悩みに寄り添いながら、小倉さんはその実現を目指していきます。

(山田 智子 / Tomoko Yamada)

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