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寮生活の女子スキー部員と調理実習! 「主菜1品+副菜3品+汁物」で栄養士が“悩み”を解決

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寮生活の女子スキー部員と調理実習! 「主菜1品+副菜3品+汁物」で栄養士が“悩み”を解決

著者:W-ANS ACADEMY編集部

2025.07.24

コンディショニング

食事

この日の献立は、鶏ハムの低温調理、さつまいもとにんじんのきんぴら、夏野菜の焼きびたし、パプリカときゅうりの春雨サラダ、そして石狩鍋風みそ汁。春雨を使ったサラダは調理実習に参加した阿部さんのリクエスト。「春雨サラダやチャプチェ、きゅうりも好きだから嬉しい!」【写真:荒川祐史】
この日の献立は、鶏ハムの低温調理、さつまいもとにんじんのきんぴら、夏野菜の焼きびたし、パプリカときゅうりの春雨サラダ、そして石狩鍋風みそ汁。春雨を使ったサラダは調理実習に参加した阿部さんのリクエスト。「春雨サラダやチャプチェ、きゅうりも好きだから嬉しい!」【写真:荒川祐史】

特集「ピリオダイゼーションに合わせた試合期の食事」第3回、調理実習編

 日大では運動部の学生に向けて、公認スポーツ栄養士である松本恵教授がスポーツ界で提唱されているピリオダイゼーションに則った栄養指導を行っています。その取り組みの一つが「調理実習」。今回、松本教授の調理実習の様子をリポート。また、学生自身が自分の食事を作ることの大切さについても伺いました!

 ◇ ◇ ◇

 日大で運動部の学生に向けて栄養指導を行う、松本恵教授。毎年、座学のほか、買い物に同行したり、調理実習を行ったりと、実用的な指導を行っています。

「1人暮らしや寮生活で自炊をする学生は、自分自身で食事を考え、コンディションを整える必要があります。また、時には遠征・合宿時に自分たちで食事を準備する場合もあります。ところが、ほとんどの学生たちはただレシピを渡されても、どんな食材を使い、どのように調理をし、どのぐらいの量を食べれば良いのかなどは、まったく想像ができません。結果、『調理』のハードルがものすごく高くなってしまいます。

 調理はトレーニングと同様、実技です。理解したり上達したりするには、食のコーチから指導を受けながら、体験するのが最も近道。実感を伴うことで作り方や食べ方をしっかり理解できますし、その成功体験が『また自分で作ってみよう』という気持ちにつながります」

 今回は、女子スキー部の選手2人が調理実習に参加。その様子をリポートします。

同じスキー部でも種目で異なる食事の悩み

左から、松本恵教授、阿部きさらさん、栃谷天檸さん【写真:荒川祐史】
左から、松本恵教授、阿部きさらさん、栃谷天檸さん【写真:荒川祐史】

【調理実習参加メンバー】
日大文理学部体育学科 女子スキー部
アルペンスキー 阿部きさらさん(3年)
クロスカントリースキー 栃谷天檸さん(3年)

 日大のスキー部は女子部員のうち、19人が寮で生活。毎日の食事は、朝食は1、2年生が、夕食は3、4年生が調理を担当。2人一組でその日の献立を組み立てて全員分の食事を作るそうです。夕食の献立は主菜、副菜3つ、サラダ、汁物の食事を作るのが決まり事。品数が多いだけに「調理を担当する時は、食材がかぶらないように、そしていろいろな栄養が摂れるように、何を作ろうか悩みます」とは栃谷天檸さん。それを聞いていた阿部きさらさんは「天檸の作るご飯は『絶対にウマい!』ってわかっているから、ペアになる日は主菜を担当してもらっています(笑)」とのこと。「料理は好きだから、そう言ってくれると嬉しい!」(栃谷さん)と仲良しの2人。

栃谷さんが調理を担当したある日の食事。主菜はエビマヨ、副菜にほうれん草とひじきの白和え、じゃがいもとピーマンのめんつゆ炒め、豚肉とごぼうのしぐれ煮、そしてサラダとコーンスープ。「得意料理は白あえ。にんじんでしっかり歯ごたえを出します」(栃谷さん)【写真:本人提供】
栃谷さんが調理を担当したある日の食事。主菜はエビマヨ、副菜にほうれん草とひじきの白和え、じゃがいもとピーマンのめんつゆ炒め、豚肉とごぼうのしぐれ煮、そしてサラダとコーンスープ。「得意料理は白あえ。にんじんでしっかり歯ごたえを出します」(栃谷さん)【写真:本人提供】

 次に2人の食事の悩みを聞いてみると……。「アルペンは体力、筋肉量が必要なので食事量が多い」と阿部さん。「基本的に何の制限もないので、つい食べすぎてしまいます。筋肉はつきやすいけれど体重を減らさなければならない時の食事の加減が難しく、やせられないのが悩みです」(阿部さん)

 一方、「クロカンは持久力が必要。特に練習量が多くなると体がなかなか回復しなくて……」という栃谷さん。「とはいえ、ただエネルギーを摂ればいいというわけではありません。油っぽいものは胃がもたれるので、糖質多めの食事を意識しています」(栃谷さん)

【写真:荒川祐史】
【写真:荒川祐史】

 この日の調理実習は、松本教授が寮の夕食ルールに合わせて「主菜1品+副菜3品+汁物」の献立を用意。近所のスーパーで大量に食材を買い込んだ3人は、研究室のキッチンに戻ると早速、調理を開始! さすが寮生活3年目の2人。慣れた包丁さばきでサクサクと野菜をカットしていきます。「普段の調理実習は包丁の使い方から教えます。でも2人ともすごく丁寧だし上手!」(松本教授)

 2人の手が止まり、真剣な眼差しで松本教授の手本に見入ったのは、鶏むね肉の扱い。「お肉の取り扱いを間違えると、すぐにお腹を壊すから本当に気をつけて。胸肉は観音開きでなるべく平らにすると、熱も均等に入るから生の部分が残らなくて安心。それと、生の鶏肉を直接触らない、うっかり箸をつけないことも大事!」(松本教授)

海外遠征も考慮して選んだ食材

松本教授は調理や食事の際、学生の野菜の切り方や食べるペースなども観察しているそう。「『たくさん』というボリューム感や『ゆっくり食べる』というスピード感は、選手によって異なるので実際に見ながら、個々に合ったアドバイスができます。今日も一口一口、箸でガッツリ掴んで食べる阿部さんに対し、栃谷さんは箸でつまむ量も少なく、ちょこちょこ食べます。これは、体重コントロールが必要な持久系競技の選手に多い特徴」(松本教授)【写真:荒川祐史】
松本教授は調理や食事の際、学生の野菜の切り方や食べるペースなども観察しているそう。「『たくさん』というボリューム感や『ゆっくり食べる』というスピード感は、選手によって異なるので実際に見ながら、個々に合ったアドバイスができます。今日も一口一口、箸でガッツリ掴んで食べる阿部さんに対し、栃谷さんは箸でつまむ量も少なく、ちょこちょこ食べます。これは、体重コントロールが必要な持久系競技の選手に多い特徴」(松本教授)【写真:荒川祐史】

 実はこの日、主菜を鶏肉料理にしたこと、副菜の一品をごぼうではなく、さつまいもとにんじんのきんぴらにしたのは、海外遠征もあるという2人の事情も考えてのこと。「ごぼうは海外では手に入りにくいんです。鶏肉やいも類は海外でも手に入りやすいから覚えておくと便利ですよ」(松本教授)

「和え物は常温で置いておくと菌が増えるから、すぐ冷やしてね」「焼きびたしはラップでぴっちりふたをすると、しっかり浸かるよ」などなど、次々と松本教授からは調理のアドバイスが飛ぶなか、約2時間ですべての料理が完成しました!

【写真:荒川祐史】
【写真:荒川祐史】

 調理実習の締めは、待ちに待った試食タイム。「合宿中は1食1合を目安に食べている」という2人。「う、うまっ!!」「鶏ハムやわらかーい!」と気持ちいい食べっぷり! なかでも好評だったのは夏野菜の焼きびたし。「野菜が好きだし簡単にできるからいい!」(阿部さん)「手間も時間もかからないから、たくさんの人数分を作る時もいいよね」(栃谷さん)。

 あっという間に完食し、この日の実習は終了。「今日1日でレパートリーが増えました。寮の食事だけでなく、海外遠征の時にも生かしたいです!」(阿部さん)「今回、改めて衛生管理の大切さを知りました。夏になるので一層気をつけます」(栃谷さん)。2人とも、お疲れさまでした!

教えてくれたのは…

【写真:荒川祐史】
【写真:荒川祐史】

■松本 恵 / Megumi Matsumoto

管理栄養士/公認スポーツ栄養士。日本大学文理学部体育学科教授、博士(農学)。北海道大学大学院農学研究科を修了後、スポーツ栄養の現場サポートに携わるようになる。サウスオーストラリア大学招待研究員を経て2011年より現職。同大学の柔道部、陸上競技部、トライアスロン部、体操部などの選手の栄養サポートを行うほか、オリンピックでは2021年東京大会、2024年パリ大会でサーフィン日本代表をサポート。また、日本ライフセービング協会ハイパフォーマンスチーム専門スタッフ(栄養士)として活動中。

(W-ANS ACADEMY編集部)

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