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「善行はスルーされ、挑戦は叩かれる」 SNSに批判の声も…“自称アイドル”活動の発信を続けるワケ――ゴルフ・菅沼菜々

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「善行はスルーされ、挑戦は叩かれる」 SNSに批判の声も…“自称アイドル”活動の発信を続けるワケ――ゴルフ・菅沼菜々

著者:金 明昱

2026.03.06

キャリア

THE ANSWERのインタビューでアイドル活動について語った菅沼菜々【写真:増田美咲】
THE ANSWERのインタビューでアイドル活動について語った菅沼菜々【写真:増田美咲】

「THE ANSWER的 国際女性ウィーク」4日目 菅沼菜々インタビュー後編・アイドル活動

「W-ANS ACADEMY」の姉妹サイト「THE ANSWER」は3月8日の国際女性デーに合わせ、さまざまな女性アスリートとスポーツの課題にスポットを当てた「THE ANSWER的 国際女性ウィーク」を展開。今年は「心とカラダを満たす『幸せ』の選択」をテーマに、3日から12日まで10日間にわたってアスリートがインタビューに登場します。高みを目指し、心身両面で全力を尽くすアスリートたちの姿を通して、一人ひとりの女性が“自分らしく”、幸せな日々を過ごすためのヒントとなる内容を「W-ANS ACADEMY」でも掲載します。

 4日目は2025年にツアー3勝目を挙げたトッププロの菅沼菜々(あいおいニッセイ同和損害保険)。「病との共生と、自分らしさの貫き方」をテーマにしたインタビューの後編では、プロゴルファーの枠を超えた「アイドル活動」の真意に迫ります。なぜ彼女は、批判を恐れずに「自称アイドル」として発信を続けるのか。アスリートとしての新しい生存戦略、そして彼女が大切にする「自分の意志を消さない」生き方について語りました。(取材・文=金 明昱)

 ◇ ◇ ◇

 菅沼の職業はプロゴルファーだが、実はもう一つの顔がある。それは“アイドル”である。本物のアイドルではない、“自称・アイドル”。今やシーズンオフになるとファンの前でライブを開催するのが定番になった。ゴルフ界やファンの間では有名だが、プロゴルファーたるもの、ゴルフだけしていればいい、という時代でもない。

 世間一般には「アスリートは競技一筋であるべき」という風潮があることも事実だが、菅沼はそこに、ストレートな疑問をぶつける。

「なんなんですかね?(笑)。私は良くないと思う。多趣味でいろんなことをやっていいと思うし、どんどん好きなことをやったほうがいい。そのほうが、結果的に競技の成績も上がりそうじゃないですか。1個に絞る必要なんてないんです。それで悩んでいるなら、別の楽しいことをやったほうがいい」

 元々、大の“坂道グループ”ファンで、なかでも乃木坂46には“推し”がいる。好きが高じて2023年から本格的にライブ活動を始めた。今年のオフには自身3回目となる単独ライブを都内で開催したが、500人の席はいっぱいに埋まった。

 実際のライブは圧巻。白い衣装で登場した菅沼は、AKB48の「フライングゲット」や「ヘビーローテーション」など10曲以上を多彩な衣装で熱唱。総立ちのファンから「ななちゃん!」「かわいい!」とコールが飛ぶ中、トークショーやクイズ大会を含めたステージは3時間を超えた。

 この規模のライブを成功させるには、もちろんかなりの時間が必要と思いきや、本人は意外と涼しい顔。

「別にそんな大変じゃないですよ。移動中にダンスを覚えたり、歌を歌ったり。会場の打ち合わせはマネージャーがやってくれて、私は移動で構成を考えて、オンラインで打ち合わせに入る。むしろ、1日じっとしているほうが疲れるタイプなんです。4時10分に起きてゴルフに行って、レッスン行って、取材を受けて、トレーニングに行く。そういう密度のほうが私は落ち着くんです」

 2月18日にはデビューCD「君の救世主になりたくて!」を発売した。ミュージックビデオではキレキレのダンスを披露しており、完成度の高さに驚かされる。プロゴルファーと言われなければ、新人アイドルのようだ。「多くの人に聞いてほしいし、ぜひ買ってください!」と笑う。

「アンチが来たら一流」心の支えになったレジェンドの言葉

今年のオフに開催した単独ライブでは、500人の席がいっぱいに埋まった【本人提供】
今年のオフに開催した単独ライブでは、500人の席がいっぱいに埋まった【本人提供】

 彼女にとってアイドル活動は、単なる趣味の域を超えている。前編で触れた通り、彼女自身が絶望の中にいた時、アイドルの言葉に救われた。だからこそ、今度は自分が「誰かに元気を届ける存在」になりたいという強い使命感がある。「みんなで幸せになりたい」というシンプルな願いが、彼女を動かしていた。

 アイドル活動の起点は、意外なものだった。

「きっかけは2022年のヨネックスレディスで見せた『体育座り』です(笑)。そのテレビ映像を誰かが切り抜いてSNSに載せてくれたのですが、それがちょっとバズったんですよ。『可愛い』と言ってもらえて。自分で言うのは痛いんですけど(笑)、その時『あれ? いけるかも』って思いました。単純なんですけどね」

 最初は150人規模のささやかなイベントから始まった。「みんなに元気が届いたらいいな」という思いで始めたライブは、次第に熱を帯び、彼女の「やりたいこと」が形になっていった。もちろん、華やかな活動の裏にはSNS上で批判の声もつきまとう。

「最近は開き直っています。私のことを好きな人だけ好きでいてくれたらいい。そもそも興味がなかったらコメントなんてしてこないはずだから、『あ、私に興味あるんだな』『ちょっと興味あるじゃん』と思うようにしています(笑)。(プロ野球の)レジェンドの篠塚和典さんに『アンチが来たら一流、有名になった証拠だよ』と言われた言葉が、すごく支えになっています。ゼロの人にはアンチも来ないですから」

 一方で、彼女は自分を「実はすごく気にしいで、繊細なタイプ」とも分析する。

「女子プロって、みんな気が強いじゃないですか。でも私は言えないタイプ。試合中、同伴競技者の動きが気になっても、嫌われるのが怖くて直接は言えないんです。練習場でも『私が我慢すればいいや』と自己犠牲をしちゃう。ライブの後も『つまんないと思ってる人いないかな』とずっと気にしています」

 自分らしさを貫く一方で、彼女が4年前から継続しているのがパラスポーツへの寄付活動だ。

「私、ボランティア活動とか好きなんです。人のためになることが好き。所属先(あいおいニッセイ同和損保)の縁もあって始めましたが、毎年続けています。でもね、ここで面白い発見をしたんですよ」

 彼女はいたずらっぽく笑う。

「寄付の記事には、全然ヤフコメ(Yahoo!ニュースのコメント)がつかないんですよ。普段あんなに叩く人たちが、いいことをすると急に静かになる。『そこもアンチしろよ!』って思うくらい(笑)。善行はスルーされ、挑戦は叩かれる。でも、それが世の中なんだなって客観的に見ています」

無理に克服するのではなく「自分が壊れない選択」をする

現代を生きる女性たちへ、菅沼が伝えたいメッセージとは【写真:増田美咲】
現代を生きる女性たちへ、菅沼が伝えたいメッセージとは【写真:増田美咲】

 その構造を理解した上で、彼女はあえて「キラキラした部分」をSNSに載せ続ける。「努力している姿を見せるのはダサい」という美学もあるが、それ以上に「有名な人が発信することで、病気のことも含めて広く伝わる」という信念があるからだ。

 現代を生きる女性たちへのメッセージを問うと、彼女は迷わずにこう答えた。

「自分の意志を消さないことです。周りに流されず、自分の意見を持つこと。私自身、流されやすくて『私が我慢すればいいや』と思っちゃうタイプだからこそ、そう言いたい。自己犠牲をしてまで我慢する必要はないと思うんです。嫌なことは嫌、やりたいことはやりたいと言える強さを持ってほしい」

 制限のある「広場恐怖症」と共に生き、批判にさらされながらもアイドルを公言する。その生き方こそが、彼女が体現する「次世代のアスリート像」であり、自由な女性の姿だ。「無理して克服」するのではなく、「自分が壊れない選択」をすること。その勇気が、彼女の強さの源泉だ。

 もちろん、今もさまざまな“制限”がある。それでも彼女は今を楽しく生きている。ルートを選び、回避し、遠回りしてでも会場にたどり着く――。それは彼女のゴルフとアイドルの“二刀流”の人生もまさに同じ。その姿は、勝敗とは別の場所で、誰かの背中を力強く押しているに違いない。

【ゴルフ・菅沼菜々さんの「心とカラダが満たされていると感じる瞬間」】

「お腹いっぱいで眠たい時(笑)。あと、日向に座っている時。幸せって、そんなに大きなものじゃなくていいんです。今日渋滞していなかったとか、信号が青だったとか、バンカーのライが良かったとか……。私生活も同じ。ちょっとポジティブに変換するだけで、人生のルートは自分で作れるんです。私は明日も、そんな小さな幸せを拾いながら、自分らしいルートで会場に向かいます。そんな小さなラッキーをポジティブに変換するだけで、生き方はガラッと変わります」

※「THE ANSWER」では今回の企画に協力いただいた皆さんに「心とカラダが満たされていると感じる瞬間」を聞き、発信しています。

■菅沼 菜々 / Nana Suganuma

 2000年2月10日生まれ。東京都出身。あいおいニッセイ同和損保所属。父の影響で5歳からゴルフを始め、名門・埼玉栄高に進学。17年の日本ジュニアゴルフ選手権を制覇し、翌18年のプロテストに一発合格した。プロ2年目の20年シーズン開幕前に、不安障害の一種である広場恐怖症を抱えていることを告白。飛行機や新幹線などの公共交通機関の利用が難しいため、車で移動可能な大会のみに参加している。23年8月のNEC軽井沢72ゴルフトーナメントで悲願のツアー初優勝。10月のNOBUTA GROUPマスターズGCレディースも制して2勝目を挙げた。24年はシード権を失う苦しいシーズンとなったが、25年5月のパナソニックオープンレディースで約1年半ぶりの復活優勝。アイドル好きとしても知られ、今年2月には「君の救世主になりたくて!」でCDデビューを果たした。

(金 明昱 / Myung-wook Kim)

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