「INTERVIEW / COLUMN」記事
女性アスリートの“やせ”に潜むリスクとは? 体重よりも大事な「筋肉と脂肪のバランス」
著者:W-ANS ACADEMY編集部
2025.10.11
コンディショニング

「女性アスリートのやせ問題」特集・須永美歌子教授に聞く“減量”の是非(前編)
スポーツ界では、体重を減らすことがパフォーマンスにつながるという言説が長く信じられてきました。今回のテーマは、女性アスリートと“やせ”の問題。女性アスリートのコンディショニングを専門とする、日本体育大学の須永美歌子教授に伺いました。
◇ ◇ ◇
最近、高校生とその指導者、ご家族に向けて、『女性アスリートの体作り』の講演会を行った時のことです。講演後、一人の保護者が相談に来られました。
話を聞くと、「部活動のため、娘は寮生活を送っているが、実家に帰ってくると、ビックリするほどものすごい量を食べる」とのこと。どうやら『太る』という理由で食事量が制限され、「毎日、お腹を空かせて、飢えた状態で生活を送っている」と心配されていました。
以前のスポーツ界では「体重は軽い方が速く走れる、高く跳べる」といった考えが当たり前にありました。しかし本当にアスリート(ここではスポーツに取り組む部活動生からトップ選手まで、すべてをアスリートと呼びます)は体重が軽くなれば、本当に「速く」「うまく」「美しく」なれるのでしょうか?
まず「速さ」に関しては体重の軽さではなく筋力によって発揮される力です。
スピードや瞬発力は、「速筋線維」と呼ばれる筋肉が働くことで発揮されます。例えば短距離のトップアスリートの体は、お尻が丸くキュッと上がり、肩周りや太ももが太いですよね。これは、パワーが必要な部位の速筋線維が発達しているため。スピードや瞬発力が高まるのは、体重が軽いからではなく、必要な箇所に筋肉がついているからです。
また、「うまさ」は技術ですから、そもそも体重は関係ありません。そして「美しさ」は審美系競技の選手の減量に多い理由ですが、そもそも採点されるのはその人の容姿ではなく、表現としての美しさです。
また、様々な研究から、食事量を極端に制限して体重を落とすやり方は選手の体にも競技パフォーマンスにもプラスにはならないことがわかっています。事実、やせ型の選手(BMI値17.5未満)は骨密度が低く、エネルギー不足やパフォーマンスの低下が見られることは、研究で確認されています。
長期的に食べないダイエットを続ければ体を作る栄養が不足します。すると筋肉量は落ち、骨も弱くなります。加えてエネルギー不足によって、体力や集中力、免疫力なども低下。体調不良やケガのリスクは上がり、そもそも力を発揮する機会を失う恐れもあるのです。
「やせればもっと高く跳べるのに」「やせればもっと素早く動けたのに」と思いがちですが、それは「体重が軽いから」できるのではありません。競技に必要な筋力をつけて、繰り返し練習をして動きの技術や判断力を磨く。そのほうが「食べないでやせる」よりも確実に、「速く」「うまく」なりますよ。
アスリートのエネルギー不足は世界的な課題に
もう一つ、覚えておきたいことは、「筋肉は脂肪よりも重い」ということです。
トップアスリートの体は皆、とても引き締まって見えますが、体重は決して軽くはありません。というのも、彼らの体は脂肪よりも重い筋肉が詰まっているからです。
鉄とスポンジをイメージしてください。同じ1キロでも密度の高い鉄はサイズが小さく、穴だらけでスカスカのスポンジはものすごく大きな塊になります。それと同じで、一見同じような体形でも、体重を比べると筋肉量の多い人のほうが体重はずっと重い。逆に言うと同じ55kgでも、体脂肪量が多い人よりも筋肉量の多い体のほうがギュッと引き締まって見えるのです。
学生に多いのはモデルやアイドルの方の体重と自分の体重を比べて「自分はすごく体重が重い。やっぱり太っているんだ」と思い込んでしまうこと。でも、トレーニングを積んだアスリートの体は、筋肉量が多いためどうしても重くなります。
食べる量を減らし、今よりも体重が軽くなれば体脂肪も少なくはなりますが、同時に筋肉も少なくなります。大事なのは体重ではなく筋肉と脂肪のバランスです。
特に成長期にあたる中学生、高校生の時こそ、しっかり食べて、練習やトレーニングを積むことで、身長が伸びたり競技に必要な筋肉がついてきたりします。スポーツに取り組み、鍛えて手に入れた体は努力の証。「人と比べると体重が重い」とガッカリするのではなく、自信を持ってほしいと思います。
さて、現在、アスリートのエネルギー不足は世界的な課題となっています。特に問題視されているのは、ご飯、麺類、パンに含まれる糖質の不足。特に一時期流行した「糖質制限ダイエット」の影響で、「太りたくないから糖質を抜く」というアスリートがまだまだ多いようです。
糖質からのエネルギーを十分に摂るからこそ、体は成長しますし、動くこともできます。アスリートの食事は「高糖質高たんぱく低脂質」が基本。むしろ食べてすぐ運動のエネルギーになる糖質は、とても効率の良いエネルギー源です。また、スピードやパワーを発揮する速筋線維は、主に糖質をエネルギー源として利用しています。最後に糖質の適正量の計算式と1日に摂りたい具体的な糖質量の一覧を掲載しますので、ぜひ、毎日の食生活に活かしてください。
現在の体重から自分に必要な1日の糖質摂取量をチェック!

一目でわかる! 体重別・1日に必要な糖質摂取量

【資料提供:日本体育大学、女性アスリートのコンディショニングより】
(W-ANS ACADEMY編集部)
Sunaga Mikako
須永 美歌子
日本体育大学教授
日本体育大学教授、博士(医学)。日本オリンピック委員会強化スタッフ(医・科学スタッフ)、日本陸上競技連盟科学委員、日本体力医学会理事、日本トレーニング科学会会長。運動時生理反応の男女差や月経周期の影響を考慮し、女性のための効率的なコンディショニング法やトレーニングプログラムの開発を目指し研究に取り組む。大学・大学院で教鞭を執るほか、専門の運動生理学、トレーニング科学の見地から、女性トップアスリートやコーチを指導。著書に『女性アスリートの教科書』(主婦の友社)。
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